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決め手は「ゆうゆうワイド」

大学時代、とても恐い先生がいた。

講義が始まると、教室の扉に鍵をかけて、遅刻者を教室に入れない。

授業中、寝ている学生がいると、黒板消しの裏の硬い部分で、寝ている学生の頭を思いっきりひっぱたく。

いまだったらたちまち問題になることだろう。

大学院の演習も、ほとんどの大学院生が震え上がって出席せず、外国人留学生ばかりだったと聞いた。

学問的に厳格で、性格も偏屈で、その先生を評価する人はあんまりいないようだった。

私はその先生とは専門を異にしていたので、学生時代に講義を聴講した程度で、ほとんど接点がなかったのだが、就職して数年たってから、いろいろな会合でお会いするようになり、お会いするたびに、親しく話しかけてくださった。学生時代に目の当たりにした「恐いイメージ」は微塵も感じられず、「まるくなったのかな」と思った。

しかし時折見せる「偏屈さ」は変わっていなかった。会合でうっかり不用意な発言をすると、そこを執拗に攻めたてる。私もそれを一度経験したのだが、そのときは、まるで学生時代に戻った錯覚にとらわれたものである。

だが概して私はその先生にひどく気に入られているようで、その先生からいろいろと小さな仕事を依頼されるようになった。恐い先生なので、当然、断ることはできない。引き受けたとして、ヘタな仕事をしてしまったら、厳しい口調で一刀両断される。進むも地獄、引くも地獄なのである。

その先生は昨年、現役を引退したのだが、その先生からつい先日、仕事の依頼が来た。今度はとても大がかりな仕事の依頼である。

自分が中心になって取り組みたい仕事なのだが、年齢も年齢だし隠居の身なので、若い人たちが中心になって進めてもらいたい、と、私を含めた3人の名前をあげていた。

私にはとても身に余る仕事だし、何よりいま目の前にある仕事だけでもイッパイイッパイである。引き受けたとしても、とても全うできる自信などない。

しかもその仕事には、私よりもはるかにふさわしい、適任の同業者が何人もいるのだ。

私はその先生に、私よりもふさわしい人を紹介することでその仕事を免れようと考えたのだが、たぶん先生は、「そういうことじゃない!」と首を縦にふらないだろう、と思い直した。

それに、ふさわしいと私が考えている人は私よりもはるかに売れっ子なので、すでに断られている可能性もある。それで私に仕事がまわってきたのかも知れない。

引き受けるべきか否か。

そんな折、30年続いたTBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」がこの4月で終了し、後番組を伊集院光が担当する、というニュースに接した。

そうか、伊集院光がついに後を引き受けるのか…。

そのニュースに接して、私はその先生からの仕事の依頼を引き受けることにした。

この先どうなるかは、わからない。

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