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編集者の条件

以前一緒に仕事をした編集者のKさんは、失礼ながらあまり器用な人ではない。業界ズレしたところもあまりなく、どちらかといえば座持ちも悪い。

しかしなぜか、私の書く文章をいたく気に入ってくれている。

前回本を出してから5年がたった昨年、久しぶりにKさんから連絡が来て、

「また一緒に仕事をしましょう」

という。

しかし前回の本は地味すぎてビックリするほど売れなかったのだ。それが原因でKさんは部署が変わったとも聞いている。懲りていないのだろうか、と思った。

ついに根負けしてKさんと会うことになり、いろいろと本の企画を考えてみたのだが、なかなかまとまらない。

そうこうしているうちに1年がたった。

これでは埒があかないと思ったのか、先日Kさんは上司の編集長を連れてきて、都内のファミレスで仕切り直しの打ち合わせを行った。

その編集長というのは、座持ちのいい方で、人と会って話をすることを苦にしないタイプの人だった。たぶん編集者によくいるタイプなのだろう。

編集長は私が何者かであるかもよくわからないようだったが、そんなことはおかまいなしに、ひとしきり私と雑談をした。その途中、

「次の打ち合わせがありますんで、私はこれで。あとはK君、頼むよ」

と言って、ファミレスを出て行ってしまった。

たぶん私にはなんの関心もなく、単なるコンテンツの一つとしか考えていないんだろうな、と思わずにはいられなかった。

それに対してKさんは、とにかく私の文章を高く評価してくれていた。

たぶんKさんのそうした評価は、Kさんの不器用さも手伝って、編集長にはあまり伝わっていないのだろうな、と思う。

まあそんなことはどうでもよい。とにかく私は、身の丈に合わないような企画にしばられるような文章は書きたくないのだ。

「いっそ、自分の書きたいことを書いてもいいですか?」

とKさんに聞くと、

「それでお願いします」

という。Kさんは是が非でも、俺の本を出したいのだな、と私は理解した。

そこまで信頼されていれば、冥利に尽きるというものである。

もう少し、この不器用な編集者とつきあってみるか。彼だけが私の文章を評価し、本を出すことにこだわってくれているのだ。

少し気が楽になり、少しずつだが、筆が進むようになった。

パイロット版の原稿を送ると、さっそくKさんはうちの職場に来た。

「面白いです。これでいきましょう」

はたしてこの企画、あの編集長に理解されるだろうか。

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