ドラマ演出家監督の憂鬱
台湾から帰ってきました。
往復の飛行機で、映画を観た。ラインナップを見ると、「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」(1973年)があがっていたので、久しぶりに見ることにした。
このころの渥美清は、本当に脂がのっていたなあ。山田洋次の演出も冴えわたっていた。
さて、帰りの飛行機ではなんの映画を観ようか。
迷ったあげく、石橋冠監督の映画「人生の約束」(2016年)を見ることにした。
富山県のある町を舞台に、その町で古くからおこなわれているお祭りをめぐって、人々の思いが交錯する、というストーリーである。
出演者は豪華である。竹野内豊、江口洋介、西田敏行、柄本明、優香、小池栄子、ビートたけし…。それに加えて、立川志の輔師匠と室井滋も、富山県出身という縁で出演している。まさにこれ自体が「お祭り」的キャスティングである。伝説の名演出家のもとに、豪華出演陣が集まったということなのだろう。
石橋冠監督は、「池中玄大80キロ」などの演出を手がけた、日本のテレビ界の名演出家である。つまり私は小さいころから、石橋冠演出のドラマを見て育ったのである。
さて、映画を見て、「うーん」と唸ってしまった。
映画というよりも、やはり2時間ドラマという印象をぬぐえない。
そこで語られる価値観やセリフも、かつて子どものころに私が見たドラマの域を、越えていないのである。
感動的なストーリーということなのだろうが、登場人物の誰にも、共感できない。
いくつか感動的なシーンがあり、そのつど反射神経的に涙が出るのだが、それはこの映画が「いい映画」だからではなく、「涙泥棒」の映画、つまり、「涙だけ奪って後に何も残さない」映画だからである。
どうしてこんなことになるのだろう、とつらつら考えてみると、これはひょっとして、テレビドラマ演出家の持つ「業(ごう)」のようなものではないだろうか。
以前、ライムスター宇多丸さんが、ラジオで映画「ホタルノヒカリ」を酷評していた。私自身はその映画を観ていないのだが、宇多丸さんはこれを「テキトーに作った映画」だと喝破したのである。
この映画の監督は、テレビドラマの演出を数多く手がけた吉野洋である。その演出実績は、「池中玄大80キロ」「ちょっとマイウェイ」「あんちゃん」「Oh!階段家族」「すいか」など、日本テレビの土曜グランド劇場枠のドラマの、しかも私のドストライクのドラマを、数多く手がけてきたのだ。私は吉野洋演出のドラマを見て育ってきたと言ってよい。
ドラマの名演出家が映画を撮るとコケる、というのは、ドラマの演出家が持つ業(ごう)のようなものなのではないだろうか。
反対に、映画監督がドラマの世界に入って成功する例がある。「HOTEL」をヒットさせた瀬川昌治とか、「あぶない刑事」の村川透とか、「相棒」をヒットさせた和泉聖治とか。
このあたりをもっと掘り下げて考えてみたいところなのだが、目下のところ、時間がない。
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