ぶよぶよするもの
だいぶストレスがたまっている。最近は、精神的に追いつめられていて、とくに書くべきネタもない。
こういうときは、坂本龍一の80年代の音楽を聴くか、松本清張の小説を読むか、にかぎる。つまり、むかし愛聴していた音楽なり愛読していた小説を読むと、安心するのである。
松本清張の小説の、あの「心がざわざわする」感じがたまらない。
たとえば、『山の骨』。
「…当主の藤四郎が半年前に四十歳の働き盛りで病死をした。七七忌もとうに過ぎたので、その妻が消毒を兼ねて女中や店員を使い大掃除にかかったのだが、屋根裏から出た包み物には、妻も心当たりがなかった。よほど前からそこにあったとみえて、風呂敷も、その間からはみ出た新聞紙も埃で真っ黒になっている。包みは固いものではなく、手で押さえるとぶよぶよとしていた」
もう、この一節を読むだけで心がざわざわする。「屋根裏から出た包み物」、「心当たりがない」、「風呂敷」と「はみ出た新聞紙」が埃で真っ黒、そして、「手で押さえるとぶよぶよする」。
いったい何なんだ?こんないかがわしいものはない!
さらに描写は続く。
「…あんまり汚いので中庭に持ち出して麻紐を切り、風呂敷と新聞紙の包みを開けると、中からワンピースとスリップなどが一緒にくるんだままで出てきた。ワンピースは夏もので、その柄も色も、また下着も、若い女のものだった」
一瞬「なまものか?!」とドキッとしたが、中から出てきたのは若い女性の夏物衣料。しかし、それだって十分にいかがわしい!
ここから、この包みを開けたその家の「雇人」は、故人とその「モノ」の関係について次々とあらぬ妄想を広げていくのだが、このあたりの叙述は、松本清張の真骨頂である。
そこで、ハタと考える。
これを、実際にやってみたらどうなるか?
つまり、何かを新聞紙と風呂敷に包んで、麻紐で縛って、屋根裏とはいわないまでも、押し入れに仕込んでおく。もちろん中身は、「手で押さえるとぶよぶよよする」何かである。
で、私の死後、身内の者が、その得体の知れない「ぶよぶよするもの」を見つける。風呂敷と、その間からはみ出た新聞紙は、埃で真っ黒である。
(気色悪いなあ…)
おそるおそる開けてみると、中身は、生前の私とは一見なんの関わりもないようなものである。
残された者たちは、この説明のつかない「ぶよぶよするもの」を、どのように推理するだろうか。
そのことを確かめたいのだが、自分が死んでしまっては確かめようがないことに気づき、この遊びは断念することにした。
面白いと思ったんだがなあ。
どうもストレスがたまると、おかしなことばかり考えていけない。
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コメント
コメント欄はあいかわらず旅の空である。
仕事が終わるとおまちかね、コンククスを食べに行く。
この街にはこれが楽しみで、来るようなものだ。
実は夏場しかメニューにないのだが、果たしてあった。
コンククスにキンバッ、と頼むと、
豆乳の冷麺ですね、と店員に言い直されるが 、かまわない。
ステンレスでなく気取った白磁の器に入って、レーズンなんぞが載っているが、大豆をすり下ろしたクリーミイなスープが、旅に疲れた体にやさしい。
先日の駅前居酒屋のようにうますぎる、というわけでもないが、ちゃんとした韓食をいただくだけで、幸福な気持ちになる。
もお、朝昼晩、三食ここに通い詰めていい。
もっとも、ここの名物料理は食べたことはないけど。
ここで問題。
ビビン冷麺もいける、この店がある街に来た喜びを、擬音で表現すると...
投稿: コンこぶぎ | 2016年6月22日 (水) 04時19分
ぴょんぴょん…?
投稿: onigawaragonzou | 2016年6月22日 (水) 22時29分
鬼瓦さん、大正解です。
ちなみに、M駅の新幹線乗り場前にできた売店にはフクダパンが山積み販売。チロルのチーズケーキもありました。
しかーし、ご当地の真の名物は、コンククスでもフクダパンでもなかった。
ずばり、詩のように美しい気象情報だったのだ。
ホテルでなにげなく見ていた朝のニュース。
地方局のベテラン・アナウンサーの語り口に、一瞬に心をわしづかみされてしまった。
家に帰ってネットで調べて見ると、意を同じくする方がおられるようで、なんと、このアナウンサーの天気予報動画が大量にアップされている。
リレー中継の動画が多いが、このアナウンサーのすごいところは、県内地域のポイント予報の原稿を詩的に読んでしまうところ。
これは県内でしか見られないし、なにしろ、最後の「おはぁよお~う、○○でした」という番組タイトルコールも聞けない。
さて、ここで問題。
このアナウンサーの名調子集のなかで、もっとも気に入ったフレーズはどれでしょう?
わたくしめのベストは、台風一過のK上川を「土の色の川です」と描写している奴。
地域のポイント予報から番組タイトルコール、そしてご当地に縁深い朝のテレビ小説に繋がる動画です。
「O船渡 日差しもさわやか 吹き渡る風の ここちよさ」
無機質な温度の折れ線グラフの画面なのに、
まるで、バルビゾン派の風景画を映しているようなナレーション。
しびれます。
ラジオ深夜便で、全国デビューしてくれないかなあ。
投稿: 名調子こぶき | 2016年6月26日 (日) 05時33分
「県北もすっきり晴天。濡れた木々の葉も乾いて、軽やかでしょう」
投稿: onigawaragonzou | 2016年6月27日 (月) 01時14分
雨です。
大正解です。
張り詰めた心に、待望のおしめり。
原稿も進むことでしょう。
木々の葉をあらう
雨粒の音
眠れない夜を
ひと越し、ふた越し、三越しして
やっとたどり着いた。
ここが、まほろばです。
旅の始まり、スタート地点です。
おはよお~う、こぶぎでした。
投稿: 名調子こぶき | 2016年6月28日 (火) 08時26分
こぶぎさんのコメントのすごいところは、名調子の文体に乗せて、私が都内某所で1時間半ほど喋る仕事をした、その場所を当てているところ。
こぶぎさん、大正解です!
投稿: onigawaragonzou | 2016年6月28日 (火) 23時12分