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遅筆の謎

あんまり他人様のことを言える立場ではないのだが。

遅筆な人、というのは、なんとなく共通点があるような気がする。

たとえば、能弁な人ほど、遅筆である場合が多いような気がする。

ある会合で、初めてお会いした方のお話が、とても弁舌さわやかで、聴いていて「なるほど」と思うことばかりだった。

あまりにお話しを聴いていて耳心地がよいので、その方に原稿を書いていただくようにお願いしたところ、待てど暮らせど、原稿が送られてこない。

しかも、そんな長い文章ではなく、ごく短い文章である。

「出るか出ないかわからないような企画本」ではなく、「発行日が決まっている本」だったので、こちらはやきもきするばかりである。

あの弁舌さわやかな様子は、「そのまますぐ文章になるのではないか」と期待させるのであるが、現実にはなかなかそうはいかないらしい。

まだ大学院生だったころ、弁舌さわやかな先輩にかぎって、まったく論文が書けない、ということを目の当たりにしていたことを思い出し、ひょっとしてこれは、遅筆な人の共通点なのかも知れないと、思ったのである。

なぜ、話を聞いておもしろい人は、文章となるとなかなか進まないのだろう。

これは私にとって、ささやかな謎である。

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