続・異端を継ぐ
8月6日(土)
2年ほど前に急死した同業者のMさんの蔵書整理のため、ご自宅のある横浜へと向かう。
家を出て、JRと私鉄を乗り継ぎ、約2時間ほどで最寄りの駅に着いた。最寄りの駅では、Mさんと同じ研究室の1年後輩だったHさんが待っていた。
Mさんの蔵書整理は、学生時代をともに過ごしたHさんが中心になって進められてきたが、あるとき私に連絡があり、
「Mさんの蔵書の一部を引き取ってもらえないだろうか。あなたに引き取ってもらえば、Mさんも喜ぶだろうから」
と言われた。
私は不思議に思った。なぜなら私は、Mさんとは出身大学が違うし、なによりMさんとは1度しか会ったことがないからである。もちろん、論文の上ではよく知っていたが、私はMさんのことを、まったくといっていいほど知らなかったのである。
それでもHさんは私に呼びかけてくれて、昨年、大学の研究室の3回ほど足を運び、蔵書の一部を引き取ることにした。
そして今回は、ご自宅にある蔵書の整理に取りかかるというのである。
「自宅にもたくさんの蔵書があるんですよ。ぜひ鬼瓦さんにも見てもらいたい。できれば一部を引き取ってもらいたい」と、Mさんと旧知のHさんが私に言ったのである。
それにしても今日も暑い。
最寄りの駅から15分ほど歩き、Mさんの自宅に到着した。Mさんの奥さんと、大学院生の娘さんが出迎えてくれた。
「暑かったでしょう。さ、中にどうぞ」
Hさんと私は、まずMさんの仏壇に手を合わせた。
ご自宅の蔵書も膨大だった。Mさんの幅広い関心にしたがって、日本、中国、韓国のあらゆる分野の本があった。一見バラバラに見えるような内容だが、蔵書を手にとりながら見ていくうちに、Mさんがどんなことを考えていたのかが、なんとなく想像できた。
私は生前のMさんのことをほとんど何も知らないが、蔵書からわかることをご家族にお話ししているうちに、なんとなくMさんと対話をしているような、不思議な思いにとらわれた。
そう、考えてみれば不思議なのである。私はMさんと1度しかお会いしたことがないのにもかかわらず、なんとなく、旧知の間柄のようにご家族とお話ししているのである。
1日かけて、ひととおり自分の引き取るべき本の選別が終わった。Hさんと私は、Mさんのご自宅をあとにした。
「鬼瓦さんに本を引き継いでもらったら、Mさんも喜んでくれると思うんですよ」
Hさんは帰りがけに、そうおっしゃった。
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