店じまい
8月1日(月)
1300年の昔から変わらずに立っている門。
その門が面している通り沿いに、小さなカフェがある。
私たちがこの町で仕事をするとき、ランチは決まってこの店である。
というのも、私たちの作業場から歩いて行ける距離にある、手ごろなランチの店が、ここしかないからである。
その店は、4人掛けのテーブルが3つほどあるだけの狭いお店で、女性店主が一人で切り盛りしている。ほかに男性店員が一人いるが、家族だろうか。小さいが、こじゃれたお店である。
この店については、以前に書いたことがある。
この町での仕事は春と夏と秋の年3回、いずれもほんの数日間にすぎないのだが、店主や店員は、私たちのことを覚えていて、
「やあ、ご無沙汰してます。お待ちしていました」
と声をかけてくれる。
で、私たちはカレーを注文するのが習慣だった。
私たちは、自分たちの仕事をとくに名乗ることもなく、店主も私たちの仕事について聞くこともない。ただなんとなく、「年に3回、数日だけ来る人たち」というだけの存在である。
「今回は何日滞在されるんですか?」
「今日だけなんですよ」
以前は数日間だったこの町での仕事も、近ごろは予算の関係上、1日で終わってしまうほどの作業量になってしまった。
いつものようにカレーを注文し、食べ終わると、店主が人数分のアイスコーヒーを運んできた。
「これ、サービスです」
私たちが不審な顔をすると、
「実は、この店、今月をもちまして店じまいすることになりました」
「ええぇぇっ!!そうなんですか?」
私たちはショックを受けた。この界隈に1軒しかないカフェが店じまいするとなると、これから昼食は、どうすればよいのだろう?
どうして店じまいするんですか?という立ち入ったことは聞けない。なぜなら、店主もまた、私たちに対して立ち入ったことを聞いてきたことがないからだ。
経済的な事情なのか、家族の事情なのか、体力的な問題なのか、などと思いをめぐらせてみたが、答えが出るはずもない。
「いままでありがとうございました」と店主。
「いえ、こちらこそ、いままでお世話になりました。…寂しくなりますね」
会計を済ませ、お店を出ると、外は焼けるような暑さだった。
考えてみれば、私たちの仕事だって、いつ店じまいになるかわからない。現に私自身も予算の関係で、今日を最後に、しばらくこの仕事から離れることになるのだ。
何が「一億総活躍社会」だ???これでは「一億総店じまい社会」ではないか!!!
こうしてまたひとつ、窮屈な世の中になっていく。
さて、この界隈の憩いの場となっていた、その小さなカフェの名前というのは…。(超難問)
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