若者の町で講演会
9月4日(日)
都内で最も若者が集まる町で、講演会をおこなうことになった。
といっても、対象はおもに年輩の方々である。若者は一人もいない。
事前に主催者から、会場についての説明を受けた。
「駅を降りていただきますと、有名な犬の銅像があります」
「はぁ」
「道をまっすぐ行きますと、マルイというデパートがみえてきます」
「はぁ」
「そこを左の方に曲がりますと、パルコというデパートがみえてきます」
「はぁ」
「そのはす向かいです」
「わかりました」
かつては若者文化の最先端と呼ばれたパルコのはす向かいの建物で、若者文化とはまったく関係のない地味な講演会をするというのは、なんともシュールである。
お客さんが20名くらいのこぢんまりした講演会だったが、久しぶりに再会した方がいた。
2009年10月、韓国留学中のことである。
大学院時代にお世話になった大先輩が、平均年齢70歳の学生30人ほどを連れて、韓国に旅行にいらしたとき、私と妻がそのツアーに同行して案内したことがあった。
そのときの学生さんが、聞きに来ていたのである。
しかも、である。
その学生さんというのは、あのとき、夕食で隣の席に座ったご高齢のご婦人だったのである!たしかそのときすでに、80歳を超えていたと思われる。
「もう90に手が届く年齢になりました」
私はビックリした。韓国でお目にかかった7年前と、まったく容子(ようす)が変わっていない。とても矍鑠(かくしゃく)としているのである。
「明後日から九州旅行なんですが、台風が心配です」
「明後日から九州にご旅行されるんですか?」
「ええ、島をまわります」
いやあ驚いた。好奇心というのは、こんなにも人を健康にさせるのだということを実感した。
講演会が終わり、若者でごった返している繁華街を通って、一緒に駅まで歩いていく。
道行く人は若者ばかりである。その中で90歳になろうとするおばあさんが、背中にリュックを背負って颯爽と歩いている姿は、実にシュールであった。
「ちょっとデパートに寄りますので、これで失礼いたします」
「どうか九州、お気をつけて」
その方は、雑踏の中に消えていった。
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