あぶさん
10月6日(木)
死ぬほど忙しい。
韓国から、VIPが来日するというので、午前中、成田空港まで迎えに行き、職場までお連れする。
今日は先方の社長とうちの社長が会談するということなので、間違いがあっちゃいけない。ぬかりなく段取りを組んだ。
先方の社長はどんな方なのか?
8月に私が韓国を訪問したときに、いちど社長にご挨拶したのだが、短い時間だったため、人となりはよくわからなかった。
我々のような業界から成り上がった方ではなく、いわゆるエリート官僚なので、話が合うかどうか心配した。
しかし、心配は杞憂に終わった。
いつも思うのだが、本当のエリートというのは、じつにいい人である。
もちろん、本音の部分はわからないが、少なくとも対人関係においては、ほどほどに座持ちがよかったりする。
先方は、社長と、随行員である部下と、通訳の3人。
こちら側は、社長と、副社長と、私を含めたヒラ社員2人の、計4人。
職場の近くの料亭で会席料理を食べながら、じつに和やかな雰囲気で会話が進む。
(まるでお見合いのようだな…)
そう、今日は、先方と我が社がこれから手を取り合っていけるのかどうかがかかっている、大事なお見合いの日なのだ!
話題が、「方言」の話になった。
日本もそうだが、韓国も地域ごとに方言がある。
とくに私が留学していた慶尚道は、韓国でもことさら訛りが強い。
私がそんな話を持ち出すと、先方の社長がおっしゃった。
「慶尚道の人々は、誇り高い反面、方言についてはソウルに対して劣等感があるようです。とくに女性はね」
「そうですか」
「若いころ、徴兵されて慶尚道の軍隊に入営したとき、慶尚道の女の子とつきあったことがあります」
あろうことか、エリート社長は私たちに、過去の恋愛話をはじめたのである。社長は続けた。
「その女の子は、私に対しては標準語を使ったのですが、電話などで家族と会話をするときには、思いっきり慶尚道訛りだったんです」
「つまり、つきあっている男の人の前では、訛りを隠して標準語を話していたということですね」
「そうです。やっぱり方言で話すことが恥ずかしかったのでしょうな。軍隊が終わると私は復学しなければなりませんでしたからソウルに帰ることになり、その女の子とは別れました」
「そうですか」
「そうしたら、風の便りで、その女の子はキャセイパシフィック航空の客室乗務員になったというではありませんか」
「美人だったんですね」
「そうです。惜しいことをしました…」
一同はその話に笑った。
「社長、はじめて聞きました。そのお話」
と、部下の随行員の方が言った。
日ごろ部下にも言わないようなエピソードを話していただく、というのは、我々に心を開いてくれた証拠ではないだろうかと、私は思った。
昼食が終わり、職場にご案内し、いろいろとお話をした後、一行は夕方に都内でご予定があるということで、私はその場所までお送りすることにした。その場所で、翌日から始まるイベントの開幕式があるというのである。じつは社長ご一行は、その開幕式に主賓として招待されたため、今回来日したのであった。ちょうどいい機会なので、うちの職場にも挨拶にいらしたというわけである。
その場所に着いたのが午後6時。建物の前でお別れする。
「今日はいろいろとありがとう」
「こちらこそ、お会いできて光栄でした」
握手をしてお別れした。
緊張の糸が緩み、すっかり疲労困憊した私は、
(さて、最寄りの駅から帰るか…)
と、地下鉄の駅に向かって歩いていると、聞いたことのある居酒屋を発見した。
「ビートたけしのオールナイトニッポン」でよく話題に出てきた「あぶさん」って居酒屋、ここにあったのか!
ちょっと感動した。
さて、私がその社長とお別れした建物というのは、クイズにするまでもなく、すぐにわかるだろう。
開幕式に招待されたその社長の会社というのは…。
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コメント
김철민 - 인연
https://youtu.be/sy7x4iooKIs
投稿: 直球勝負こぶぎ | 2016年10月 9日 (日) 01時11分
こぶぎさん、大正解です!
投稿: onigawaragonzou | 2016年10月10日 (月) 00時40分