ソメク論争
10月31日(月)
その、歓迎会でのこと。
「ソメクを飲みますか?」と社長。ソメクとは、コップ一杯のビールにお猪口一杯分の焼酎を混ぜた飲み物のことである。
「ええ、いただきます」
ふつうは、コップ一杯の中に、ビールと焼酎を混ぜて作るのだが、社長のやり方は違っていた。ヤカンの中に、瓶ビール一本分のビールと、韓国焼酎1本分の焼酎を、ドボドボと入れはじめたのである。
なんとも大胆なソメクの作り方である。
「その作り方、初めて見ました」
私が驚いて言うと、今度は横にいた部長が言った。
「私は以前、とても不思議なソメクの作り方を見たことがあります」
「どんな作り方ですか?」
「栓を開けた焼酎の瓶の上に、やはり栓を開けたビール瓶を逆さに乗せるのです」
「……」
「しばらくすると、不思議なことに焼酎がビール瓶の方に上がっていきます」
「……」
「そうすると、ビール瓶のほうに焼酎が混ざるでしょう?で、あるていど時間がたったら、ビール瓶を素早く元に戻し、ビール瓶に入っているお酒のほうをソメクとして飲むのです。そうすると、ちょうどいい感じのソメクになる、というんです」
社長を含めて、そこにいた人たちは、誰一人その作り方を知らなかった。
「実際やってみましょう」
部長はそう言うと、焼酎の瓶とビール瓶の栓を開け、素早い動作で、焼酎の瓶の上にビール瓶をひっくり返して乗せたのである。
しばらく様子を見てみるが、焼酎がビール瓶のほうに上っていく気配が、外から見ただけではわからない。
「おかしいんじゃないか?」と社長は言った。
「いえ、私はたしかに見たんです」と部長。
「ふつう、ビール瓶が下だろう」
「いえ、社長、それは違います。焼酎が下だから、少しずつ焼酎が上っていって、ソメクができあがるんです。で、ビール瓶に入っているお酒のほうだけを飲むんです」
「でも見てごらん。いっこうに焼酎が上っていく気配がないぞ。ビール瓶が下の方が正しいんじゃないか?」
そう言うと社長は、おもむろに瓶を反対に置いた。つまり、ビール瓶を下に、焼酎の瓶を上に置いたのである。
見るとたしかに、ビールの泡が焼酎の瓶のほうに上っていくのがわかった。
「やはりこちらの方が正しかったのだ」と社長は誇らしげに言った。
「さあ、飲もう」
論争に勝った社長はそう言うと、逆さに置いた焼酎の瓶を取り外し、あろうことか、ビール瓶に入ったお酒と焼酎の瓶に入ったお酒を、ヤカンの中にドボドボと混ぜて入れたのである!
おいおい、それじゃあさっきの飲み方と結局同じじゃないか!
いままでの論争は、いったい何だったのか?
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コメント
50歳酒を作る方法
https://youtu.be/68HrBscEyHw
今宵はこれでお試しあれ
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投稿: 爆弾こぶぎ | 2016年11月 2日 (水) 11時15分