最も苦痛な原稿
12月23日(金)
この世で最も苦痛な原稿は何かといえば、それは「事典の原稿」である。
事典の原稿ほど、書いていて苦痛なものはない。
ときおり、半ば暴力的に、出版社から事典の項目の執筆を依頼されることがある。
断ってしまえばよいのだが、編集委員の方がお世話になっている先生だと、なかなか断りにくい。
だいたい15項目くらいが割り当てられるが、なかには聞いたこともない項目を執筆しなければならないこともある。
(何で俺にこの項目がまわってくるのか?)
そういうときはたいてい、誰かが執筆を断ったりした場合である。
で、項目の重要度の違いによって、1項目あたりの指定文字数が異なる。1項目400字の場合もあれば、3000字の場合もあるのだ。
半ば暴力的に与えられた項目を、指定された文字数にしたがって、事典のテーマに合う感じで執筆しなければならない。
もうこれが、苦痛で苦痛で仕方がないのである。
最近も事典の項目執筆を依頼されて、嫌で嫌で仕方がなかったのだが、書かないわけにもいかず、先日ようやく脱稿した。
事典の原稿で思い出した。
以前に事典の項目を依頼されたときに、「土地」という項目を1200字で解説しろ、というのがあった。
「土地」って、漠然としすぎるだろ!!!しかも1200字でどうやってまとめればいいんだ?
まことにムチャな依頼である。
また、「杖」という項目を1200字で解説しろ、というのもあった。
「杖」の場合は逆に、1200字も書くネタがなくて困った。
同じ事典で、「のろし」を1200字で解説しろ、というのは、比較的書きやすかった。
まことに罰ゲームのような依頼である。
(こんな文章、誰も読まねえだろうなあ)
と思って苦し紛れに書いて出したら、その事典が出た直後にある人から、
「あの事典の『のろし』の項目、読ませていただきました」
と言ってくれた人がいて、ビックリした。あんな文章を読んでくれる人がいたんだと、その人の律儀さに逆に驚いたほどである。
だから私が事典を読むときは、新しいことを知ろうと思って読むのではない。
「書いた人の苦心の跡がどれだけ残っているか?」
を知るために、読むのである。
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