« 戦争の描き方 | トップページ | 似た者同士 »

座右の書となるか

1月10日(火)

新年早々、気が重い仕事が続いた。

まわりからみたらたいした仕事ではないのかも知れないが、私にとっては重くのしかかる仕事である。

こういうとき、気が重い仕事の前後数日間は、他にやらなければならない仕事がたくさんあるにもかかわらず、ブレーカーが落ちたみたいに、何もできなくなる。

電池がなくなったみたいに、パッタリと活動が停止してしまうのだ。

とくに原稿がまったく進まなくなる。このブログも、書く気が起こらなくなるのである。

まったく、非効率な人間である。

今日、ひとまず気が重い仕事の山が過ぎたので、本を読むことにした。

『〆切本』(左右社、2016年)というおもしろい本を見つけた。

古今の有名な作家の、原稿の締切に関するエッセイや日記、書簡などを集めたアンソロジーである。

この本を読むと、勇気が出る。

ほとんどの作家が、文豪と呼ばれた作家も含めて、締切までに原稿が書けないことを、「あるあるネタ」として書いているのである。

この本がいいなと思ったのは、基本的に僕が好きな作家の文章ばかりが載っているということ。昨今の、不愉快な流行作家の文章がないので、安心する。

田山花袋、夏目漱石、島崎藤村、寺田寅彦、志賀直哉、谷崎潤一郎、菊池寛、内田百閒、吉川英治、獅子文六、梶井基次郎、江戸川乱歩、横光利一、林芙美子、稲垣足穂、古川ロッパ、幸田文、坂口安吾、長谷川町子、太宰治、松本清張、大岡昇平、吉田健一、木下順二、遠藤周作、山口瞳、筒井康隆、野坂昭如、梶山季之、藤子不二雄A、井上ひさし、赤瀬川源平、高橋源一郎、泉麻人、新井素子、横光利一、手塚治虫、深沢七郎、村上春樹、山田風太郎、小川洋子、谷川俊太郎、星新一、…などなど。

残念なのは、山本周五郎が入っていないことである。以前にこのブログで書いたが、『山本周五郎戦中日記』に、原稿が書けないことの苦悩を記している。

まあそれはともかく。

おもしろいのは、どの作家も、締切前に原稿が書けないという内容の文章を生き生きと書いている、ということである。

つまりこのアンソロジーを読めば、その作家「らしさ」が、存分に楽しめるというわけだ。

個人的におもしろかったのは、高田宏の「喧嘩 雑誌編集者の立場」という文章。

作家と編集者の関係がとてもよくわかる。

この文章を読むと、昨今の流行作家がどんなに差別的な発言をまき散らしても、マスコミが攻撃しない理由がよくわかる。

編集者として何度となくそうした作家に喧嘩を売った高田宏のような人は、今もいるのだろうか。

この本には、「絶対に締め切りを守る作家」の文章も載っている。吉村昭、森博嗣など。

そういえば、私の知り合いにも、締切よりもはるか前に原稿を出してしまう人がいる。

一番すごかったのは、正式な原稿依頼が来る前に、原稿を出した人がいた。

考えてみれば、全部が全部、作家は締切を守らない、というわけではないのだ。

森博嗣は、締切を守らない作家に対してかなり手厳しい。

「締切に遅れる作家を許容しているのは不合理である」「何故、合理化できないのか。彼ら(編集者)は、締切遅れの原稿を取る苦労を「美談」のように誇らしげに語る。酔っ払っているとしか思えない」

この点、同じ「締切守る派」でも、吉村昭の文章は奥ゆかしい。

しかし不思議なのは、どの文章を読んでも、不快には思わず、勇気がわいてくるということなのである。

|

« 戦争の描き方 | トップページ | 似た者同士 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

本も面白そうですが(もう6刷!)、「左右社」という出版社に興味を惹かれてサイト見てみました。案の定、多彩なようでいて一貫しているようなラインナップ。センスと見識のありそうな版元です。ミシマ社とか春風社とかと似た感じかな。

投稿: ひょん | 2017年1月10日 (火) 23時22分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 戦争の描き方 | トップページ | 似た者同士 »