新しい因縁
1月30日(月)
この週末は、韓国から来たお客さんのアテンドに終始した。
韓国のクォンさんは、初めてお会いする方で、座持ちが悪い私には、気の利いた会話をすることができないのだが、今回の仕事では、韓国語が話せるのは私だけなので、いわば私が命綱なのである。
最近はこんな仕事ばっかりだ。
27日(金)、夜9時過ぎに、成田空港に迎えに行き、宿泊施設までお連れする。家に帰ったのが夜11時半。
28日(土)、朝10時から17時まで、職場で国際会議。韓国と台湾のお客さんを招いて、3言語による会議である。それが終わって懇親会。会議の時は通訳業者がいたのだが、懇親会は僕が通訳をつとめなければならなかった。
懇親会が終わり、お客さんを宿泊施設にお連れする。翌日、お客さんを都内にお連れしないと行けないので、私もその宿泊施設に泊まった。
29日(日)、朝8時にお客さんをお連れして宿泊施設を出発し、10時から上野で会議。お昼12時に終わり、午後は自由時間になった。
さあ困った。自由時間をどう過ごすか?
上司からは、「夕食まで付き添ってごちそうするように」と命令されていて、とにかく夕食の時間まで、間を持たせなければならない。
まずは、お昼ご飯と食後のコーヒー。
上野の「かまくらや」という釜めし屋さんに行き、そのあと喫茶店に行ってコーヒーを飲んだのだが、どうがんばっても2時までが限界である。
「どこか行きたいところがありますか?」私が聞いた。
「いやあ、とくに考えてません」
「浅草なんかいかがです?」困ったときの浅草である。
「昨年日本に来たときに行きました」
「そうですか…」浅草が封じられた。ほかに思いつかない。
「できることなら…」とクォンさん。「娘と妻にお土産を買いたいのですが…」
「お土産ですか。わかりました」
考えた結果、有楽町のロフトと東京駅地下街に行くことにした。
上野駅から山手線に乗り、有楽町のロフトに着いたのが、2時15分。
「ここで娘のお土産を買います」
「じゃあ、1時間ほど時間をとりましょう」
クォンさんがロフトで買い物をしている間、私は近くの喫茶店で時間をつぶした。
午後3時15分。
「おかげで、娘に買いたいと思っていたものが買えました」
「そうですか。それはよかった。では次に東京駅に行きましょう」
東京駅に着いたのが午後3時半。
八重洲口の地下街には、キャラクターグッズのお店が並んでいる。
「じゃあ、ここでも1時間ほど時間をとりましょう」
私はふたたび、近くの喫茶店で時間をつぶした。
午後4時半。
「娘のお土産が買えました」
「そうですか。それはよかった」
「今度は大丸に行ってもいいですか?妻にもお土産を買わないと」
「じゃあ、1時間ほど時間をとりましょう」
私はまたまた、近くの喫茶店で時間をつぶした。
午後5時半。
「おかげで妻のお土産が買えました」
「どんなものを買ったんです?」
「柚子ソースとか、生わさびとかです。韓国では買えないので」
「そうですか。それはよかった」
まだ6時前だが、さすがにもう間が持たない。
「ちょっと早いけど、夕食に行きましょう」
東京駅八重洲口地下の串揚げ屋さんに行った。
2人だけでは、とても間が持たないと思ったが、ありがたいことに、妻とその友達も途中で合流してくれた。
「来月、ソウルに行きます」と私。
「それはいつですか?」とクォンさん。
「2月7日~9日です」
「そうですか…。8日の夜はあいてますか?」
「ええ、たぶん大丈夫だと思います」
「いちばん好きな韓国料理はなんですか?」
「サムギョプサルです」
「では、今回の旅の御礼に、ソウルでいちばんおいしいサムギョプサル屋さんを探して、ごちそうしてさしあげますよ」
「それは嬉しいですね。ありがとうございます」
座持ちが悪い私とは、この3日間、たいして話も弾まなかったと思うのだが、それでも、ありがたいと思ってくれたのだろう。義理堅いのは、クォンさんのほうである。
気がついたら4時間がたっていた。
黒霧島のロックを立て続けに飲んだせいで、翌朝ひどい二日酔いになったことはいうまでもない。
30日(月)午前11時。
成田空港までお送りした。
「では、来月8日にお会いしましょう」
「お気をつけて」
これもまた、因縁、である。
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