戦争の描き方
映画「この世界の片隅に」は、戦時下の市井に生きる人々を描いた映画で、いわゆる戦争映画とは対極にある。
私の乏しい映画体験からすれば、黒木和雄監督の映画「TOMORROW 明日」(1988年公開)が、原爆投下前日の長崎の市井の人々の日常を描いていた。日常を淡々と描くことで戦争の理不尽さを見る者に痛感させる映画は、これまでもないわけではなかったが、「この世界の片隅に」は、その完成度の高さという点で、他の映画と同列に論じることはできない。
小学生の頃に見た映画「東京大空襲 ガラスのうさぎ」(1979年公開)は、戦争に翻弄された一人の少女の成長物語だが、やや悲劇的にすぎる演出をしている。
あるいは、大林宣彦監督の映画「野ゆき山ゆき海べゆき」(1986年公開)は、戦時中の子どもたちのわんぱくぶりをコミカルに描くことで、やはり戦争の理不尽さを際立たせたものだったが、ファンタジー要素が強い演出だった。
大林監督で思い出したが、故郷の尾道を舞台に映画を撮っていた監督は、あるときから、尾道で映画を撮ることをやめてしまった。
それは、ある映画で使われた戦艦大和のセットを尾道市で一般公開したことに対する抗議の意味からだったと聞く。
ふと、広島県出身の大林監督が「この世界の片隅で」を映画にしたら、どんな感じになっただろう、と夢想したりする。
栩野幸知さんが憲兵役で出演することは間違いないだろう。
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コメント
「この世界」、見てみたくなりました。それにしても、メディアであまり取り上げられないのはあの女優さんをめぐる事情のせいですか。これもまた理不尽ですな。
いずれまた、ルイ・マル監督『さよなら子どもたち』の感想を聞きたいですね。これもまた一発の銃声もない「戦争映画」ですが、巨大な圧力が人と人の間を生木を割くように引き裂いていくさまを目の当たりにする思いがする作品です。
投稿: ひょん | 2017年1月 4日 (水) 11時12分
メディアでほとんど取りあげられないのは、在京のテレビ局とか大手の広告代理店とかがからんでいないからだと思います。クラウドファンディング方式で資金を調達したそうです。本当はこの映画こそ、毎年8月にテレビ放映すべきだと思うんですが、今のこの時代状況じゃ、無理でしょうね。
投稿: onigawaragonzou | 2017年1月10日 (火) 22時36分
隣町の映画館で、見て来ました。確かに多くの人たちに見て欲しいと思う作品でした。主人公の声、あの方以外考えられませんな。
印象的だったこと。50代以上の大人の観客が多かったこと。映画が終わってから、席を立ちかねているひとが何人もいたこと。こちらは若い世代が多かった。
この作品は、肌感覚の及ぶミニマルな世界を通じて戦争を描くことで、なにか普遍的なものを獲得していますね。「戦争とは悲劇である」「戦争とは不正義である」というような構図や主張がないことが、逆に今までにない説得力をもたらしているような…。まだ整理がつかないので、詳しい感想はまたいずれぐぐにでも。
ちなみに私はこれを見て、ドレスデン大爆撃を描いた小説『スローターハウス5』(カート・ヴォネガット・ジュニア)を思い出しました。
投稿: ひょん | 2017年1月14日 (土) 20時51分
「この世界の片隅で」、2016年のキネマ旬報日本映画ベスト・テンで1位をとったそうですよ。業界のしがらみがない映画なので、純粋に作品が評価されたということでしょう。
はたしてほかの映画賞でどのような扱いを受けるか?もしこの映画が高く評価されない映画賞があったとしたら、たぶんそれは業界寄りの映画賞だということです。注視していきましょう。
投稿: onigawaragonzou | 2017年1月16日 (月) 02時52分