サムギョプサルと韓定食
2月8日(水)
先月、職場にお招きしたクォンさんが、今度は私がソウルに行くときに、サムギョプサルをごちそうしてくれるという。
社交辞令かな、と思っていたらそうではなく、「8日の午後7時に、地下鉄5号線光化門駅の5番出口で待ち合わせましょう。光化門駅の近くにおいしいサムギョプサルのお店を見つけました」というメールが来た。
メールには続けて、「もしよろしければ、妻と娘も一緒でよろしいでしょうか」とあったので、「ぜひ夕食をご一緒しましょう」と返信した。
なんとも不思議なご縁である。
先月末に職場にお招きした際に初めてお会いし、専門分野も全然違うし、さほどお話しが盛り上がったわけでもないのだが、それでもお誘いを受けたのである。
私としては、たいしたおもてなしもできずに心苦しかったのだが、義理堅いクォンさんはお返しをしたいと思ってくれたのだろう。
7時に光化門駅の5番出口でお会いし、そのまま少し歩いてサムギョプサルのお店に向かった。
ところがそのお店が高級感溢れる人気店らしく、店員さんが、
「1時間半ほどお待ちいただきます」
という。さすがに1時間半は待てない。
クォンさんは、まさか予約が必要だったとは思わなかったようで、慌てて次の候補の店をスマホで探し始めた。
私はよっぽど、「サムギョプサルのお店でなくてもいいですよ。どこだっておいしくいただけますから」と言おうとしたが、せっかくのご厚意に水を差すわけにもいかず、ここはなすがままにしよう、と思った。
やがて、クォンさんは1軒のお店を見つけたらしく、タクシーでタプコル公園の近くまで移動した。
やはりここも人気店で、お客さんでごった返していたが、運よく席を確保することができた。
ふだん私が食べているサムギョプサルよりもかなりいい肉のようで、クォンさんもそうとう気を使ってくれたようだった。
私は、クォンさんの娘さんにささやかなお土産を準備していて、それを渡したところ、たいそう喜ばれた。
とくにこれといった話題で盛り上がったというわけではなかったが、サムギョプサルはとてもおいしくて、いい雰囲気で会食が終わった。
「この次は、今日行けなかった店に必ず行きましょう。今度は予約しておきますから」
とクォンさんは言った。
2月9日(木)
昨年11月に、妻の職場にお招きした方々にお礼の挨拶に行こうと、妻と2人で、非公式でソウルの近郊にある国家機関に立ち寄った。
昨年11月の行事には、お客さんのお出迎えの時に少しばかりお手伝いしたこともあり、私もまったく関係ないわけではなかったのである。
お招きしたのは、副院長以下、さまざまな肩書きの方4人だったが、どなたも気さくな方ばかりで、私自身も、そこに訪れるのを楽しみにしていた。
ソウル市内から1時間ちょっとかかる郊外にその機関はある。最寄りの地下鉄の駅を降りて15分ほど歩いて、約束時間の午前11時に到着した。
門のところで、キム先生が待ちかまえていて、「お待ちしておりました」という。副院長先生以下、4人の先生方はいずれも私たちが来るのを楽しみにしていたらしく、私たちが到着したことを知ると、たちまち集まってきてさっそく応接室に通された。
私たちが日本から持ってきた些細なお土産を渡すと、先方もお土産を準備していて、ちょっとしたプレゼント交換となった。
ハーブティーを飲みながら、近況を話したり、昨年11月の数日間の思い出話に花を咲かせたりした。
そのうちお昼になり、キム先生が、「午餐(お昼の会食)を準備していますから、そちらに移動しましょう」という。
建物を出て、車に乗って食堂に向かう。
この町はソウルの郊外にあり、いくつかの官庁が集まった地域なのだが、自然が多く残る田舎町である。
車で少しばかり移動すると、しゃれたお店に到着した。韓定食のお店である。
その店で、上品でおいしい韓定食をいただきながら、いろいろと話をする。
といっても、話をするのはもっぱら妻の方で、私は付き添いのようなものである。4人の先生方は、昨年11月以来、妻のことをすっかり慕っていた。それもそのはずである。昨年11月の6日間にわたる行事は、すべて妻がぬかりのないようにとりしきったのである。そのことを知っている4人の方々は妻に絶大な信頼を寄せていることが、会話の様子から十分にわかったのである。
4人の中でいちばん若い、女性の方が言った。
「日本で過ごした6日間は、夢のようでした」
たいしたおもてなしもできなかったと思うのだが、それでもみなさんは口々に、あの6日間の思い出を大切にしてくれていたのである。
厳めしい名前の国家機関に所属する4人の方々は、そのイメージに反して、いずれも人として魅力的な方ばかりだった。あの行事が成功したのは、この方たちの人間的な魅力によるところが大きかったのだろう。
厭わずに受け入れることの大切さ。
今回の旅では、そのことを学んだのである。
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