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牛骨論争

3月12日(日)

昨日は朝から夜まで、自分が主催の会合があり、神経を使ったのですっかりクタクタになってしまった。

今日は午後に2時間の打ち合わせがあり、その前後は休もうと思ったのだが、どうしても映画が見たくなり、映画館に行くことにした。

Ea0dd6b5e5fd14eae961ac02382c704ef50一つは、ナ・ホンジン監督の映画「哭声(コクソン)」である。ナ・ホンジン監督といえば、「チェイサー(原題:追撃者)」や「悲しき獣(原題:黄海)」などの作品で知られている。

「コクソン」には國村隼も出演していることで話題になった

朝の9時40分開始の回に行くと、客席はほとんどが高齢の方である。

(変だなあ。ナ・ホンジン監督の作風からすると、高齢者の方には受け入れ難い映画なのに…)

と思っていたのだが、エンディングになってその疑問が氷解した。

エンドクレジットのところで

「KUNIMURA JUN」

の名前が出ると、拍手が起こったのである。

そうか!高齢者の方々は、國村隼が出ているというので見に来たのか!

以前にも書いたが、國村隼がキャスティングされた経緯は、ナ・ホンジン監督が、俳優の顔写真をぱらぱら見ていて、

(この人がいい)

と直感的に選んだのだという。

もしこの話が本当ならば、ナ・ホンジン監督は、國村隼が「ブラック・レイン」に出ていたこととか、「キル・ビル」に出ていたこととか、「地獄でなぜ悪い」に出ていたこととかを知らずにキャスティングしたということである。恐るべき「第六感」(笑)である。

まあそれはともかく。

もうひとつ私が感慨深かったのは、クァク・ドウォンが主役をはっていたことである。

これもすでに述べたことだが、私はかつてクァク・ドウォンを「ポスト・キム・ユンソク」と評した。この映画における彼はまさにその位置づけである。つまり、「チェイサー」におけるキム・ユンソクにあたる役柄として、クァク・ドウォンをキャスティングしているのだ。

國村隼にしても、クァク・ドウォンにしても、いかにもナ・ホンジン監督らしいキャスティングである。

ナ・ホンジン監督らしい、といえば、この映画じたいが、ナ・ホンジン監督ファンにはたまらない作風である。

不気味さとバイオレンスと笑いが混在する、例のあの感じである。

こんな場面があった。

山にいるという「ある者」を退治するために、町の人たちが、軽トラックの荷台に武器を次々と投げ込んで軽トラックに乗り込む。

武器を軽トラックの荷台に投げ込むシーンが、一瞬だけ映る。

ツルハシとか、鎌とか、斧とか、鍬とか、鉄製の工具や農具が次々と荷台に投げ込まれるのだが、その中に混じって、牛骨が2,3個、投げ込まれるのである。

ほんの一瞬の映像なのだが、これを見て笑ってしまった。

牛骨って!武器のカテゴリーに入るか???

ナ・ホンジン監督ファンならすぐに思い浮かぶだろう。

そう!「悲しき獣」の中で、キム・ユンソクが牛骨で人をガンガン殴って殺してしまうシーンである

つまり、武器に混じって牛骨が投げ込まれるというこの一瞬のシーンは、「悲しき獣」のセルフ・パロディーなのではないだろうか???

これに対して、妻は異なる見解を持つ。

曰く、「ナ・ホンジン監督にとって、牛骨を武器のカテゴリーに入れることは、常識の範疇なのではないだろうか」と。

つまり、「牛骨って、人を殴る道具だよね」と、監督自身があたりまえのように思っているにすぎないのではないか、というのである。

他の武器と一緒に牛骨を投げ入れるシーンは、「悲しき獣」のセルフ・パロディーなのか、それとも、ナ・ホンジン監督がたんに牛骨は人を殴る道具だと本気で思っていることによるものなのか。

はたして真相はどちらなのか、わからない。

というか、こんなところを気にして映画を見ている人間は、たぶん世界中に私たち夫婦しかいない。

午後の打ち合わせのあと、もう1本、映画を見た。

Photoパク・チャヌク監督の映画「お嬢さん〈原題:アガシ)」である。

これも、パク・チャヌク監督ファンにはたまらない作品である。

「オールド・ボーイ」とか、「渇き」が好きな人ならば、もちろん見るべき映画である。

ただ、18歳未満はお断りの映画なので、それなりの覚悟がいる。

映画を見ると、淫靡、頽廃、といった言葉が思い浮かぶ。

かつては、淫靡や頽廃は、江戸川乱歩や横溝正史の作品が得意としたところだが、いまは、あの雰囲気を映像にできるのは、日本ではなく、間違いなく韓国である。

その一方で、「羅生門スタイル」の作りになっていて、凝ったサスペンスにもなっている。

2本の韓国映画を見て、あまりの内容の濃さと表現力の強さと強烈な個性にクタクタになってしまった。

いまの日本映画では、残念ながらここまでの「お腹いっぱい感」は味わえない。

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コメント

ネットで「コクソン」ぽい動画見つけたんですけど、牛骨じゃなくて鶏骨しか出てこなかったですよ。
あと、タイトルも違ってるし。

https://youtu.be/n1DRGKo3DPo

投稿: 喰声こぶぎ | 2017年3月14日 (火) 12時12分

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