大人の会話
5月25日(木)
担当編集者に、
「出版社までご足労願いますか。夕方に少し打ち合わせをして、そのあとお食事でも。部長もぜひお話がしたいと言っております」
といわれたので、出版社に向かう。
こういうときはいつも、
(ああ、連載打ち切られるんだな)
とか、
(ダメ出しを言われるんだろうなあ)
など、悪い予感しかしないのだが。
今まで、打ち合わせといったら、うちの職場に来てもらうか、あるいはどこか喫茶店でおこなっていて、出版社の中で行ったことがなかった。
今回、初めて出版社の中に入る。
(なんかドラマに出てきそうなフロアだなあ)
といった感じの、フロアである。
「ここは、辞典とか新書とか文庫とか、書籍関係の部署が集まっているフロアです」と部長。
「ずいぶんと広いフロアですね。ここに全部集まっているんですね」
「そうです」
打ち合わせが終わり、
「では食事に行きましょう」
といういことになった。
部長と、担当編集者と、私で、和食の店に入る。
ハモの上に梅肉がのっかったような上品な料理を食べながら、四方山話をする。
ここでいつも困るのが、どんな話をしていいのか、ということである。
親しい間柄だというわけではない。仕事上の会話なのである。
うっかり調子に乗って知ったかぶりの話をしても、相手はベテラン編集者なので、全部見透かされているような気がしてならない。
その一方で、編集者の話す内容が、「軽いダメ出し」をほのめかしている可能性もある。
たとえば、担当編集者が言う。
「先生のお話も文章も、本当に面白い。それをもっと多くの人にわかってもらうのが、編集者の仕事だと思ってます」
と何度もくり返すのである。
この言葉すら、軽いダメ出しに聞こえる。
つまりそれって、俺の文章がちっとも読まれてないってことだろう、と。
「僕の文章が読まれないのは、僕自身にハナがないからですよ」
と喉元まででかかって、言うのをやめた。
大人の会話って、難しい。
なんだかんだで、3時間ほどお話をした。
(あんなこと話さなきゃよかった)
と思うような内容もいくつかあって、軽く死にたくなった。
翌日、部長からメールが来た。
「今後ともどんどん「オリジナリティあふれる、おもしろい読み物」を書いていただきたく、重ねてお願い申し上げます」
とりあえず、連載は続くようだが、もっと面白いものを書けよ、というプレッシャーをかけられているようにも読める。
とりあえずもう少し頑張ろう。
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