るきさん人生
少し前のことだが、5月の大型連休の時に、高校時代の部活の人たちと再会した。年に1回の行事である。
OBたちの演奏会の後、1年ぶりに会った同期のKさんが、会場の外でみんなに立ち話で話していたことなのだが、その内容は僕にとって驚くべき内容のものだった。
公立高校の国語の教師をしていたKさんが、なんと、教師という職業を、きっぱりやめてしまった、というのである。
僕は、Kさんが高校の国語の教師であることが、天職のように思っていたから、50歳を前にして、その仕事をあっさりなげうってしまったことに、衝撃を受けたのである。
Kさんは本が好きで、高校時代に図書委員長をつとめていたし、母校の教育実習でも僕と同じときに教鞭をとったことがある。そのときから、Kさんの天職は、きっと国語教師なのだろう、と思っていた。
そして、大学を卒業して2年後、教員採用試験に合格し、公立高校の先生になってバリバリ活躍していると聞いたときは、夢が叶ったんだな、と思ったのである。
それから24年たち、教師を辞めてしまったというのだ。
ここ数年、自分が教師としてやりたいことと、生徒が望んでいることと、組織としての学校が望んでいることと、さらには親が望んでいることのすべてが、まったくかみ合わないものになってしまった、という。
そこに嫌気がさして、
(自分は、どうしてこうまでして、この仕事を続けてきたのだろう?)
という疑問が強くなり、辞める決意をしたというのだ。
「もうね、今のご時世、教師なんて、自分の理想通りにはいかないのよ。…あ、鬼瓦君も教員だったわね。ごめんなさい」
「…いや、俺ももう辞めたし…」
これからどうするの?と聞いたら、
「憧れのるきさん生活」
だという。
「るきさん生活?」
「るきさん」、という漫画があるらしい。
在宅で医療保険の請求書を処理する仕事をして、1週間で1カ月の仕事を終えて、あとは気ままに過ごす、という生活スタイルだそうである。一定期間研修を受ければ、すぐにでもるきさん生活に移行できるのだという。
つまり漫画を地でいく人生を、これから歩み始めるというのだ。
「私の人生はね、24年周期なのよ」とKさん。
24歳の時に、公立高校の教師になり、24年間つとめ続けた。そして48歳になり、それまでの人生ときっぱり決別して、まったく新しい生活を始める。
僕はKさんのことを誤解していた。てっきり、教師が天職だと思い込んでいたが、それは僕の勝手な思い込みで、実は自分に正直に生きることこそが、Kさんの生き方の本質だったのだ。
立ち話は5分ほどで終わり、Kさんは立ち去ってしまった。
来年もまた、立ち話でもできるだろうか。
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