カインの後裔
1968年に公開されたユ・ヒョンモク監督の映画「カインの後裔」は、1945年の解放後まもない、のちの北朝鮮の領域となるある村を舞台にした物語である。
解放の喜びにわく村に、ある日、共産党員がやってきて、土地改革を進める。人々は当初は困惑するが、悪いのは地主であり、小作人は奴隷根性を捨てて地主を糾弾すべきだと洗脳されるうちに、村の人々は保身と疑心暗鬼から、次第に人間関係が崩れはじめ、地主を憎むようになる。かくして、「農民会議」という「民主的」な会議を経て、地主は糾弾の対象となった。
その村の地主であったパクは、村で塾を開いて農民に勉強を教えていたが、人望のあった彼もまた、攻撃の対象となったのである。
その人物の人間性いかんにかかわらず、地主であるという理由だけで、問答無用に財産が奪われ、農民たちはハイエナのように、その財産を奪い合う。土地解放の名のもとに、それまであった村の秩序は一気に失われ、人々は考えることをやめてしまうのである。
政治的な主張を含んだ映画なのか、といえば、そうでもない。もちろん韓国の人々の間には「反共」という意識が根強く、その根底にはこうした歴史的背景が存在していたことは間違いない。
しかしこれは、ほんの一例にすぎない。人々が保身や疑心暗鬼のために、他人を売る、という行為や、問答無用の法律ができたために人々が思考停止に陥るといったことは、イデオロギーとは関係なく存在しうる。いまの私たちも、その問題に直面してはいまいか?そのことを忘れてはならないと思う。
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