霧の町
だんだん読者が誰もついてこなくなってきた、マニアックな韓国映画特集。
「霧」(1967年)
キム・スンオクの短編小説「霧津紀行」を映画化したもの。
ソウルで製薬会社の専務理事として勤めるギジュンは、仕事に疲れ、自分の故郷である霧津(ムジン)という町に帰ることにした。ムジンはその名のとおり、霧の町で、それ以外、何の取り柄もない町であった。一種、頽廃的な空気の漂う町である。
ギジュンは故郷を出てソウルに上京して成功をおさめたものの、それは自分の実力ではなく、妻の父が製薬会社の社長で、いわば虎の威を借りて出世をしたに過ぎなかった。彼にとってはそれが、ひどく息苦しいものであった。
息抜きのために故郷のムジンに帰った彼は、地元で音楽教師をしているひとりの女性と出会う。
…とまあ、ストーリーじたいはよくある話なのだが、「霧津(ムジン)」という名前に、なんとなく聞き覚えがあった。
霧の多い町。ムジン、霧津…。
思い出したぞ!
2011年公開の韓国映画「トガニ 幼き瞳の告発」の舞台となった町の名前が、やはり霧津(ムジン)だった。
映画の冒頭で、深い霧に包まれた町が登場する。それが、事件の舞台となったムジンの町だ。
ところで、「霧津(ムジン)」とは、当然、架空の町の名前である。韓国に実在する地名ではない。
ここで面白いのは、「霧の多い町」にふさわしい地名として、どちらにも「霧津(ムジン)」という地名が使われていることである。
ひょっとして、「トガニ」の原作者のコン・ジヨン(韓国の山崎豊子的な作家)は、キム・スンオクの小説「霧津紀行」をリスペクトして、「霧津(ムジン)」という架空の町を舞台にしたのではないだろうか。「霧津紀行」は有名な小説なので、「霧の多い町」=「霧津(むじん)」というのは、多くの韓国人にとって実にしっくりとくる架空地名だったのだろう。
日本でたとえると何だろう?「八つ墓村」みたいな感じか?(ちょっと違うか?)
もうひとつ興味深いのは、霧津が、韓国のどこにあったと想定しているか、である。
キム・スンオクの「霧津紀行」では、「霧津(ムジン)」のモデルとなった町は、全羅南道の順天(スンチョン)であったといわれる。
一方、コン・ジヨンの小説「トガニ」では、「霧津(ムジン)」が全羅北道にあった町だと書かれている。ただ、ややこしいことに、実際に「トガニ」の事件が起こった場所は、全羅南道の光州市である。
いずれにしても、「霧津(ムジン)」は、韓国の全羅道にいかにもありそうな町、として、小説や映画の中で描かれているのである。
韓国人の、全羅道に対するある種の意識が、垣間見られるような気がする。
このあたりをもう少し深く掘り下げていけば、なんとなく1本の論文が書けそうである。
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