お殿様に皿を焼かせた話(長い長いお皿の話)
高校時代の友人・元福岡のコバヤシです。
暇潰しに小話をひとつ。でも、つまらなかったら御免なさい。
東京の某所に十数年来通っているバーがあるのですが、まだ通い始めてそんなに経っていなかった12年程前、そのバーが開店10周年を迎えるということで、記念のウイスキーボトルを常連客に売り出すことにしました。
企画するにあたって、たまたまそこの常連客であったS氏が、「うちの死んだ爺さんが近所に囲っていた妾の家に、爺さんが呑む為にケンブリッジ時代の友達の実家で作ってるウイスキーを樽で取り寄せて置いていたんだ。その樽にウイスキーを詰めてからボトリングして売り出したら話題性があっていいぞ!」と提案しました。
S氏の祖父は戦後間もない頃、時の首相・吉田茂のもとで活躍した有名政治家(一時期、沢山関連本が出て流行ってましたね)、祖母は民芸の復興にも一役買った有名な女性(執筆した本も多数)、母方の祖父は評論家としてやはり戦後間もない頃から一時代を築いた超有名知識人(我々も教科書や受験勉強のテキストで必ず接しています)という超サラブレッドな方のようです。
さらにS氏はもう1つ企画を出してきて、それは自分がそのバーにもしょっちゅう連れて来ていた従弟(だったと思う)のM氏が、伊賀での陶芸の修行を終えて独立しようとしていたので、M氏にウイスキー用のぐい呑みを焼かせようというものでした。
我々一般人が普段かかわることのないような人達は世の中いるもので、M氏は応仁の乱の前から続く某名家のご子息で、お父上は、最近は晴耕雨読などと文化人を気取っている某元首相という、これまた超が3つぐらいつくサラブレッド。
そんなこんなで、そのバーの記念ボトルとぐい呑みが売り出された次第ですが、ちょうどその頃よくその店に行っていたので、マスターのW氏がただでぐい呑みを1個くれました。
その頃は焼き物には殆ど興味が無かったのですが、たまたま私が料理をしてカレーが得意だと話をしたら、W氏が「じゃあ私が言ってあげるから、Mさんにカレー皿を焼いて貰ったら?まだ駆け出しだけど、そのうち絶対に有名になるし、価値も出るよ!」と言ってくれたので、じゃあお願いしてみよう、という話になりました。
早速、W氏はM氏に皿を発注し、M氏は二つ返事で引き受けてくれたとのことでした。とここまでは良かったのですが、お皿はなかなか出来てきません。
そのうち数年が経ち、私は福岡に転勤になってしまうことになり、マスターのW氏は「申し訳ない。Mさんも結構悩んでいるようで、なかなかイメージがわかず焼けないみたいなんです。この間も電話で話したんですが、もう私も痺れをきらせて、じゃあもう本人から連絡して貰うから!ということになったんです。Mさんのメールアドレスを教えますから一度連絡を取って貰えませんか?」という話になってしまいました。
それで一度メールをしてみたところ、お詫びと、自分は今熊本(昔の領地ですね)にいるので宜しければ是非お立ち寄りください、という非常に丁寧な返信が返ってきました。結局訪問はしませんでしたが、そのうちM氏は売れっ子の料理研究家と結婚し、上京した際にW氏のバーを訪ねると、「Mさんの奥さんはイタリア料理の研究家だからきっとお皿を焼いてくれる筈です。」と言ってくれたのですが、やはりまだお皿は出来てきません。
そうこうするうちに、ご存じの通り私は東京に帰ってくることになってしまいました。お皿を発注してからもう10年が経ってしまいました。さすがにもう駄目だよなあ、と思っていたのですが、そんな時、バーのマスターW氏から連絡があり、「Mさんが今度、新宿のギャラリーで個展を開きます。是非、行ってみてください。」とのことでした。
あれから10年、M氏は今や若手の売れっ子陶芸家になっており、日本橋や銀座の有名デパートでも個展を開くまでになっています(陶芸の世界では40代でも若手です)。早速、個展を見に行ってみましたが、茶陶を中心とした作品はどれもセンスある素晴らしい作品です。しかもM氏は歌舞伎の海老蔵似のイケメンです(M氏曰く、「海老蔵が俺に似てるんだ!」と言っているそうです)。折角なので私も井戸のぐい呑みを買いました。
会計をする際にM氏が挨拶に来てくれたので、「XX(バーの名前)で大分前にカレー皿をお願いしたコバヤシです。」とご挨拶したところ、さっと顔色が変わり、平身低頭「その節は大変申し訳ありませんでした。必ずお皿は焼きますから、もう少し待ってください!」と謝られる始末。
翌日、W氏のバーを訪ねたところ、たまたまM氏がお客として来ていて、私の顔を見るなり「本当にすいません。必ずお皿は焼きますから!」と、また何度も謝られてしまいました。少し会話をした後、M氏は帰っていきましたが、W氏から「やあ~。弟さん(兄もそのバーにたまに行くのでそう呼ばれています)もMさんにあんなに頭を下げさせるなんて凄いですよね。世が世ならばMさんは我々一般人が話すことも出来ないようなお殿様ですからね~。お殿様にあんなに頭を下げさせるとは!」と笑って話していました。
それから1年、例の大地震が熊本でおこりました。W氏のお店に行って「Mさん大丈夫だったんですか?地震で大変だったんと思うんですけど」と尋ねると、「Mさんは無事です。地震の後すぐにうちにも連絡がありました。でも窯は完全に崩壊したそうで、熊本では暫く作品を作ることは出来ないようです。せっかくお皿が出来てきそうだったのに残念です。」とW氏が語ってくれました。やはりお皿は出来てこないのだろうか、11年経ってこんな状態だと、もう一生出来てこない気になってきます。
それから約1年、ある日、W氏のバーを訪ねると、「弟さん、朗報です!こんどこそ本当にお皿が焼かれる筈です。M氏は今度、伊賀のお師匠さんとイギリスのケンブリッジに行って窯を作ることになりました。そこでうちの記念ボトルようなウイスキーの瓶を焼いて貰うことが決まったのですが、その企画をSさんとMさんと相談していた際に、Sさんが『そう言えばM、例のカレー皿はどうなったんだ。いいかげん焼かないとマズイだろう!』と言ってくれて、Mさんが『判りました。こんどこそちゃんと焼きます。』と言ってくれました。
MさんにとってSさんは、さんざんお世話になった兄貴みたいな人ですから逆らえないんですよ。Sさんの息子さんのK君がケンブリッジに留学中でMさんの世話をすることにもなってますし。今回は現地でバーナード・リーチが使っていたという土を使って焼くみたいですから、凄い価値がありますよ。6月には出来上がる筈です。こんどこそは大丈夫ですから楽しみにしていてください。」との報告がありました。
待つこと約2か月、W氏のバーを訪ねると、W氏が暗い顔をして、「弟さんすいません。残念なお知らせです。イギリスの窯の件ですが、全部失敗したそうです。しかもMさん、怖くて私に連絡出来なかったみたいで、K君(S氏の息子)からメールで駄目だったと連絡があったんです。
本来ならMさんが自ら連絡してくるべきなのに、K君に言わせるなんて!と、ちょっと私も腹が立ってメールを無視していたら。昨日Mさん自らお詫びの電話をしてきました。でも、かわりにお父さんの窯(湯河原)で焼くと言っていたんで、何とかなるとおもうんですが...」と語ってくれました。
まあそんな会話があって7月にまたW氏のお店に行くと「弟さん、今度は大丈夫です。Mさん、熊本の窯を復興させました。その最初の窯炊きで私のボトルと弟さんのお皿を焼く、との連絡がありました。お盆明けにはお渡し出来る筈です。作品が出来たら連絡しますから、今度こそ楽しみにしていてください!」明るい声で語ってくれました。
そうして今週の火曜にW氏から連絡があり、「お皿が届きました!先に見させて頂きましたが素晴らしいお皿ですよ!いつでも結構ですから取りに来てください!」とのこと。
待つこと12年、何度もあきらめかけたお皿がついに出来上がってきました。一昨日取に行ってきましたが、カレー皿というかパスタや和食の煮物にも使えそうな、なかなかセンスが良いお皿です。写真も添付するのでご覧ください。写真は3枚ですが実際には5枚あります。
しかし、たかだかお皿で(と言ったら作って頂いた人には失礼ですね)12年もの歳月を費やそうとは!という、長い長いお皿のお話、またはお殿様にお皿を焼かせた話でした。長々と失礼しました。
ということで、元気になったらこのお皿でカレーでもご馳走しますよ!
楽しみにしていてください。」
…さあ、読者諸賢。お気づきかな。これはクイズですぞ。この文章に登場するS氏とその祖父母、そして母方の祖父、さらにはM氏とは、いったい誰か?
さらに、本記事のタイトルに使われている副題は、東欧の国民的作家の書いた童話のオマージュだが、その作家とは誰か?
さらにさらに、S氏が取り寄せたという有名なモルトウィスキーとは何か?
コバヤシは、このブログの趣旨が染みついているようで、クイズのことも意識して上の文章を書いているようです。これを、こぶぎさんならばどう答えるかな?
それにしてもコバヤシ、クイズを盛り込みすぎだぞ!
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コメント
・・・というような長い長いブログの話を、朝から読まされたんですよ。
それは、ひでーお話なことで。で、クイズの答え分かりましたか?
少っちも、分っからん。
でしょう(笑)。下戸の方に、ウイスキー・バーのクイズを解けと言われても、その方面には、とんと純粋無垢でしょうから... でも、写真に何か書いてあるようですが。
あいらー、達筆すぎて何書いてあるかわっからん。そうだ、助手の小林君は子供のくせに、くずし字が読めるから読んでもらおうかな。
いや、その方には、母方の祖父の名前を調べてもらった方が適任と思いますよ。
どうしてかね? 小林君にはバーのある場所を探してもらった方が適任なのだ。何も知らすに、そういう事をいうもんじゃない。
すみません、ただ考えるヒントを申したまでで... 口が過ぎました。
母方の祖父の名前は、もうひとりのコバヤシさんにでも聞きたまえ。じゃ、明日から旅の空だから、こんな話なんかペチャクチャ、チャペックチャとしてないで、早く帰るよ。大体、今日は久しぶりの晴れ日だったから、吹きだまり自転車部の練習で100キロ走ってきて、足もパンパンだし。
ありがとうございます。ではウーロン茶一杯で、10000円頂きます。
都心の高級バーだからといって、そ、それは高すぎる。ここの常連なんだから、少しまけて負けてくれないかな?
いいえ、ご常連でも、すこっちも、まっからん。
投稿: 深夜と森光子とこぶぎ | 2017年8月27日 (日) 21時29分
こぶぎさん、ウィスキー以外は、全部正解です!
ウィスキーのクイズは、下戸のこぶぎさんが答えられなくても無理がないことだと思います。そうとうな洋酒好きではないとわからない理不尽な難問です。
ですのでどうか、不正解だからといってグレンようにお願いします。
投稿: onigawaragonzou | 2017年8月28日 (月) 00時35分
「今朝、改めてコメント欄を見て、ハンドルネームに気付きました。
ひでーとか、あっちこっちに答を仕込んであるのを見て、面倒臭い人達だな~と正直あきれました。
眠いのにそんなことには付き合ってられません。
でも、さっき改めて読んだらバーの名前まで当てたのかな?
これは、よく探し出したな~と関心するやら、あきれるやら。」
ということで、コバヤシは当初、こぶぎさんのハンドルネームに答えが仕込んであったことに気づかなかったようです。それに、バーの名前まであてたのもすごい。この勝負、完全に明智こぶ郎君の勝利ですな。
投稿: 元福岡のコバヤシ(onigawara代筆) | 2017年8月28日 (月) 23時23分
日本ではサイレンが鳴って大騒ぎのようですが、こちらはなにも変わらず、いつも通りの旅の空。カンジャンケジャン最高ジャン。
なお、「井戸のぐい飲みを買った」と書いてしまうと、落語好きなら、殿様の名前もバーの住所もわかります、とコバヤシさんにお知らせください。
投稿: 旅の空こぶぎ | 2017年8月29日 (火) 21時32分