創作童話・東京の笛吹き党首
むかしむかし、東京という町で、大変な数のねずみが発生し、そのねずみたちに食べ物や衣類、家具や仕事の道具、はては小さな子どもや病人まで、かじりつくされるようになり、あろうことか、食事時でさえも、恐れ気もなくテーブルに上がってくるねずみたちに、みな手を焼き、腹を立て、必死になって追い回し、あれやこれやと策を講じるも、そんなものでは到底追いつかないほど、そしてもうこれ以上はできることはない、というほど、みんなが疲れはて、困りはててしまう、という事件がありました。
そんなある日のこと、奇妙な緑の服を着た1人の党首がやって来て、住民にこんなことを言いました。
「私は、みなさんがお困りのねずみ退治を、すぐにもやってのけることができます。どうですか?町長の座をくれたら、お引き受けしましょう。私に任せてみませんか?」
普通のときだったら、そんなおかしな格好をした党首の言うことなど、耳も貸さなかったでしょうけれど、ことは急を要していました。もう、できることは何にもない、こうなったら、何でも、誰でもいい、ねずみを何とかしてくれるというのならやってしまってくれ、という思いで 住民はその党首に、ねずみを退治してくれるよう頼みました。
党首は表に出ると、広場に行って、ふところから笛を取り出し、面白おかしい曲を吹きはじめました。
笛の音は、町中に広がり、疲れきっていた人々の心も、楽しくさせるようでしたので、人々は、久し振りに、うきうきした気分で表に出てきたのですが・・・。
なんと!道という道、大通りもわき道も、小さな路地にまでも、ねずみがあふれ、それが全部、広場目指して走っていくではありませんか。
人々はあっけに取られてみていましたが、ねずみの後を追ってみてみようということになり、みんなで様子を見に行きました。
すると、奇妙な緑の服を着た党首が、楽しげに笛を吹きながら、集まってきたたくさんのねずみたちを連れて、川のほうに歩いていくのが見えました。
人々は、いったいねずみをどこへ連れて行くのだろうと言い合いながら、その後に続きました。
川につくと、党首は道の端に寄り、相変わらず笛を吹き続けます。するとねずみは、あとからあとからやってきて 次々に 川に飛び込んでしまいました。
川の流れは速く、たくさんのねずみたちをあっという間に海に流し去ってしまいました。
人々は歓声を上げて大喜びしました。長いあいだ毎日悩んでいたねずみの害からやっと逃れることができたのです。町中の人々がお祭りの時のようにはしゃぎまわり、大変な騒ぎになりました。
みんな本当にほっとして、その夜は久しぶりに、ぐっすりと何の心配もせずに眠ることができました。
ところが、しばらくするとその町にまた問題が降りかかります。
今度は、町に新種のねずみが増えていきました。町長になった笛吹き党首が、面白おかしい笛を吹いて連れてきたねずみたちです。野心ばかりが強く、新種なので何をしでかすかわからないねずみたちです。再びこの町はねずみたちにふりまわされ、住民は、笛吹き党首にすっかりだまされてしまったのです。
しかし笛吹き党首はしたたかでした。矛先をかわそうと、今度はこの国の子どもたちに、面白おかしく笛を吹くことを考えたのです。
例によって面白おかしい笛を吹くと、面白いくらいに子どもたちがあつまってきます。子どもたちはみな、楽しそうに踊ったり歌ったりしています。そして家族のもとを離れ、列をなして 笛吹き党首のあとをついてあるきはじめました。
子どもたちだけではありません。家長であるおとうさんたちも、自分の家族を捨てて、なかには持参金をもって笛吹き党首についていくものまであらわれました。
「ぼうや!どこへいくの?」「娘や!なにをしているんだ!」「待ちなさい!」「待って、待って!」「お父さん、どうして家族を見捨てるの?」
みな、必死にとめようとしましたが、もう騒ぐことすら遅いほど たくさんの子どもたちと大人たちは、行ってしまいました。
さて、このお話のもとになった「ハーメルンの笛吹き男」では、笛吹き男と子どもたちが行方知れずになった、という結末で物語が終わります。
ではこの「東京の笛吹き党首」の結末は、どうなるのでしょう?
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