「選挙パロディーシリーズ」は、ひとまずこれでおしまい。
最後の「日本昔話・かちかち山」は、もはやパロディーではなく、昔話そのままである。「タヌキ」「老夫婦」「ウサギ」が、それぞれ何のメタファーなのか、わかった人はエライ!
さて、今日たまたま、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」の1コーナー、「毒蝮三太夫のミュージックプレゼント」を聴いていたら、ちょっとしたハプニングがあった。
「毒蝮三太夫のミュージックプレゼント」は、毒蝮三太夫…めんどくせえや、マムシさんが、東京やその近郊各地のお店を訪れ、そこに集まった人々にインタビューするという20分ほどの生中継番組である。
私が物心ついた頃からやっていたから、かれこれ50年近く続いている番組ではないだろうか。
マムシさんが、「ジジイ」「ババア」とか「くたばり損ない」とか、集まってきたおじいちゃん、おばあちゃんに呼びかけるのがすっかり定番となっている。ま、マムシさん自身も、傘寿を越えた立派なジジイなのだが。
ハプニングというのは、生中継中に、マムシさんがあるおじいさんにマイクを向けたときに起こった。
「ちょっとこれだけは言いたいことがある」と、そのおじいさん。「ジジイとかババアとか呼ぶのはやめてほしい」「もっと敬語を使いなさい。そうすればもっと面白くなるから」「こういう言葉遣いが、日本をダメにする」と、マムシさんに向かって言い出したのである。
どうやら、クレームをいうためだけにラジオの公開生中継に参加した人であることは間違いない。
場が一瞬、凍り付いたようにも思えた。
もちろん、お年寄りに対してマムシさんが「ジジイ」「ババア」と呼ぶことに対して、不愉快に思っている人は、それなりにいるだろう。生理的に受け付けない、という人もいるかもしれない。
しかしこれは、マムシさんが番組の中で50年にもわたってリスナーとのあいだで築き上げてきた信頼関係の中から生み出されてきた一種の話術ではないか、と、長年のリスナーである僕は、そうとらえている。ラジオというコミュニティの中だからこそ成立するコミュニケーション、というべきか。
まあこれに関する議論については別の機会に譲るとして、ともかく、いつものように予定調和的に終わるはずだった生中継が、おじいさんの「不規則発言」で、場が一瞬、凍り付きそうになったのである。
マムシさんからしたら、50年にわたる話術の蓄積を否定されたことになる。かといって、その人に言われたからといって話しぶりを変えるわけにもいかない。
マムシさんは、自分の中での筋を通しつつ、そのおじいさんを傷つけないように、その意見を尊重するという姿勢を見せて、何とかその場をおさめ、いつもの雰囲気を壊すことなく、番組を終えたのであった。
おそらく生中継でのいくつもの修羅場をくぐり抜けたマムシさんだからこそ、最後は自分のペースへ引き戻すことができたのだろう。
この一連のやりとりを聴きながら、思い出したことがあった。
数年前、私が、市民向けのシンポジウムの司会を務めたときのことである。
シンポジウムが滞りなく進み、さあそろそろお開きにしようかと思った矢先、フロアーにいた一人の老紳士から手が上がったので、その老紳士にマイクを向けた。
その老紳士は、あろうことか、話しているうちに興奮しだして、シンポジウムを全否定するような不規則発言をはじめたのである。
断っておくが、その老紳士は、クレームをつけるためにこのシンポジウムに来たわけではなかった。なぜなら、私も親しくさせていただいている老紳士だったからである。
おそらく、どこかの時点で、スイッチが入ってしまったのだろう。ひどく激高しながらお話をはじめたのである。
さあ、困ったのは主催者側である。最後の最後に、なんという不規則発言をしてくれるのだ!と、主催者側は凍り付いてしまった。
だが、いちばん困り果てたのは司会をしているこの私である。
この場をどうおさめようか…。なにしろ、フロアーには100人ほどのお客さんがいて、固唾を呑んで聞いているのである。
とにかくそのときに考えたのは、ヘタにこちらで、老紳士の誤解を解くような反論をしてしまうと、別のスイッチが入って、かえって収拾がつかなくなってしまうのではないだろうか、ということだった。
しかも、司会がここでうろたえてしまうと、100人ほどいる他のお客さんを不安にさせてしまう。
ここはいったん落ち着こう。
老紳士の言葉を遮ることはせず、誤解だろうとなんだろうと、ここは思いの丈を述べてもらおう。絶対にこちらがうろたえてはならない。
その間に、私は、この場をどうやっておさめようか、と考えた。
決して老紳士を刺激せず、老紳士のクレームをないがしろにせず、かつ、老紳士の不規則発言によるダメージを最小限に食い止めるようなおさめ方をしなければならない。さらには、その不規則発言をも取り込んだ上で、このシンポジウムが有意義なものであったことを強調して、この会を閉じなければならない。
つまり「アウフヘーベン」(笑)ですよ!
今となっては、なんと言ってその場をおさめたのか、記憶にないのだが、ともかくその場は無事に終わった。
その老紳士は、後日、あのときの発言は誤解にもとづいたものだったと、主催者側と和解した。
だから今日のマムシさんの番組を聴いて、マムシさんの気持ちが、手に取るようにわかった。
マムシさんは、クレーマーのおじいさんの発言を、決して封じることはしなかった。自分に対するクレームだとわかってからも、そのおじいさんにマイクを向けつづけたのである。
いやあ、久しぶりに、あのシンポジウムの最後の、あの感じを思い出した。
いい思い出である。
最近のコメント