霧吹きは足の裏を救う
8月くらいからでしょうか。
足の裏に違和感を感じて、歩くのがちょっと億劫になりました。
足の裏にデキモノのようなものができて、歩くたびに、「痛い!」となるのです。
痛い足の裏をかばうように歩くわけですから、自然と歩き方も遅くなります。
靴擦れではないだろうか、と最初は思い、まあそのうち自然と痛くなくなるだろう、と高をくくっておりました。
ところが、9月に入ってもまだ痛い。
それどころか、10月に入って、今度はもう1つの足の裏にも、同じようなカ所に同じようなデキモノができて、今度は1歩1歩、大地を踏みしめるたびに、
痛い痛い痛い痛い!
となるのです。
もう、どちらか一方の足でもう一方の足をかばう、なんてことはできません。
歩き方もよちよち歩きになり、まるでペンギンのようです。
しかも、いっこうに治る気配がなく、
(ああ、俺は死ぬまで、この痛みが消えることがないんだろうな。そして、ずっとこの歩き方なんだろうな)
と、覚悟を決めたのでした。
ある日、意を決して、病院の先生にこの悩みを話してみたところ、
「皮膚科に行った方がいいですよ」
というではありませんか。
僕はさっそく、家の近くの皮膚科に行くことにしました。いまから2週間ほどまえのことです。
実はいままで、皮膚科のお世話になったことがなく、ちょっとドキドキしました。
だって、8月からずっと我慢していたのです。
「どうしてこんなになるまで放っておいたんですか!」
などと先生に怒られたら、どうしよう、と不安になりました。
あるいは、取り返しのつかない事態になっていたらどうしよう!とも思いました。
診察室に入ると、ちょっと声の大きな先生が、
「どうしましたか?」
と聞きました。
私が、
「両足の裏にデキモノのようなものができまして、歩くと痛いのです」
と言うと、
「では見せてください」
と先生が言うので、私は両足の靴下を脱いで、足の裏を先生に見せました。
僕は、足の裏の、中指のつけ根あたりと、かかとのあたりを指して、
「こことここが痛いのです」
と言いました。すると先生は言いました。
「なるほど、これはイボですね。このイボにウィルスが入って、足を痛くさせているのです」
「そうですか」
「こういう場合は、液体窒素を噴霧して、このイボをかさぶた状にすればいいのです」
そう言うと先生は、霧吹きのようなものを手に持って、
シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ
と、実にリズミカルに、イボの部分に液体窒素をかけました。
最初は、中指のつけ根部分、そして次にかかとの部分と、交互に、
シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ
と、10回1セットで、これを何セットかくり返し噴霧し続けます。
左足の裏が終わると、今度は右足の裏です。
シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ
やはり10回1セットで、これを何セットかくり返し噴霧し続けます。
「今日はこれくらいでいいでしょう」
と先生は言いました。
「今日は、ってことは、今日で終わりではないんですか」
「はい。液体窒素は刺激が強すぎるので、何回かに分けてやらないとダメなのです」
「そうなんですか」
「これを、1週間~2週間の間隔で、くり返します。そのうち、イボがかさぶた状になって取れていきますから」
「1週間~2週間の間隔」って、ずいぶんアバウトな言い方だなあ。
「1週間と2週間では、何か違いがあるのですか?」と私は聞きました。
「体質ですね。液体窒素の刺激が強すぎると感じた人は、2週間後に来て下さい、というていどの意味です」
「なるほど」
その日はそれで帰ったのですが、両足の裏の痛みはいっこうにおさまる気配がありません。むしろ、もっと痛くなっていった感じがしました。
うーむ、これは騙されたか?
1週間後、またその皮膚科に行きました。
「どうですか」と先生。
「まだ両足の裏が痛いです」と僕は訴えました。
「まだ治療をはじめて1週間ですからねえ。靴下を脱いで下さい」
言われるがままに靴下を脱ぐと、先生は、また霧吹きらしきものを手にとって、
シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ
と、例によって10回1セットで、規則正しく、標的のイボに向かって噴霧していきます。
「今日はこれくらいでいいでしょう。今回は若干多めに噴霧しておきました」
染之助染太郎の「いつもよりよけいに廻しておりま~す!」じゃないんだから、と、心の中でツッコミを入れました。
「また1週間後に来て下さい」
診察室を出ましたが、どうも痛みがおさまる気配がしません。
そもそも、
シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ
という、一見頼りなさそうな噴霧だけで、3カ月近くも悩まされ続けている足の裏のイボが、治るんだろうか?という根本的な疑問に行き着くのでした。
2回目の噴霧の直後も痛みは変わらなかったのですが、それから数日経って、不思議なことに痛みが和らいでいったのです。
やはりあの頼りなさそうな、
シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ
という噴霧は、効果があったのだろうか。
だって、皮膚科の先生は、ただたんに霧吹きを手にとって、
シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ
と噴霧していただけだったんだぜ。
「だったらその霧吹きを俺によこせ!家に帰ってから俺が自分でするから!」
と、何度先生に言いかけたことでしょう。わざわざ皮膚科に行くのもしんどいほど、足の裏が痛かったのですから、できれば皮膚科など行かずに、その霧吹きさえあれば家でできるじゃん!と何度も思ったのです。
しかし、たんに素人が霧吹きでもって、
シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ
とやったところで、やはりそれは素人。間違ったやり方をしたかも知れません。
何千人、何万人の皮膚を見ている先生だからこそ、適切な噴霧ができるのではないか、と思い直し、今週もまた、足の裏を噴霧されに、皮膚科に行くことにします。
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コメント
ある男が友達に、
液体窒素をすえに行った時の自慢話をしている。
大勢の先客が、
さぞ冷たかろうと尻込みする中で、
自分の番がきたので、すーッと入っていくと、
「この人ァ、我慢できますかな」
「まあ、無理でしょう」
と、ひそひそ話。
癪(しゃく)にさわった強情者、
たかが液体窒素じゃねえか、ベラボウめ、
足の裏にバナナで釘を打つわけじゃああるめえ
と、先生が止めるも聞かばこそ、
一つでも冷たくて飛び上がるものを、
両側で三十二もいっぺんに窒素をつけさせて、
びくともしなかったと得意顔。
それだけならいいが、
順番を譲ってくれたちょっといい女がニッコリ笑って、
心で「まあ……この人はなんて男らしい……こんな人をわが夫に」
なんて思っているに違いないなどと、
自慢話が色気づいてくるものだから、
聞いている方はさあ面目ない。
「やい、豆粒みてえな窒素をすえやがって、
冷たいの冷たくねえのって、笑わせるんじゃねえや。
てめえ一人が窒素をすえるんじゃねえ。
オレの窒素のすえ方をよっく見ろっ」
よせばいいのに、
両足の裏に窒素をてんこ盛り。
まるでソフトクリームのよう。
「なんでえ、こんな窒素なんぞ
……石川五右衛門てえ人は、
液体窒素の煮えたぎってる釜ん中へ飛び込んで、辞世を詠んでらあ。
八百屋お七ィ見ろい。窒素あぶりだ。
なんだってんだ……これっぽっちの窒素
……トホホホホ、八百屋お七
……窒素あぶりィ……石川五右衛門
……お七……五右衛門……お七……五右衛門……」
「石川五右衛門がどうした」
「ウーン、五右衛門も、冷たかったろう」
(http://senjiyose.cocolog-nifty.com/fullface/2005/08/post_4bf7.html を改変)
投稿: 強情こぶぎ | 2017年11月 8日 (水) 07時47分