花筐
2月25日(日)
いろいろな意味で、自分にとっていま見ておかなければいけない映画である。
都内有数の繁華街のはずれにある、30席くらいの、小さな映画館。
なんといちばん前の席が座椅子で、2列目がデッキチェア、3列目からが普通の席。
僕は2列目のデッキチェアに座って鑑賞した。
すでに知られているように、大林監督はこの映画のクランクインの直前、肺がんで余命半年の宣告を受けていた。
しかし薬で治療しながら、この映画を撮り終えた。
3時間にわたる大作。病気で体力が落ちているとはとても思えないような、力強くて、かつ繊細な映像だった。
大林映画の「原点回帰」であり、「集大成」でもある。
同時に、老境に入った巨匠に特徴的な作品ともいえる。
黒澤明監督の「夢」とか、宮崎駿監督の「風立ちぬ」とかを、思い浮かべてしまった。
老境に入った巨匠が、何かから解き放たれ、自分の中のイマジネーションをてらうことなく表現した作品である。
大林監督は、初期の商業映画は少女を主人公とする映画を撮る。
尾道三部作がその代表例である。
やがて中年を主人公とする映画をさかんに撮るようになる。
「はるか、ノスタルジィ」「なごり雪」「告別」など。
そして、青年を主人公とする映画が、今回。
このあたりの流れは、宮崎駿監督とも何となく通ずるところがある。
老境に入り、青年を主人公とした映画を撮りたくなるのは、なぜだろう。
大林監督は、若い頃に福永武彦の「草の花」と檀一雄の「花筐」を耽読したそうだが、なるほど、この二つの作品は、通底するものがある。ある時代に生きた青年たちの想いをとらえた作品ということなのだろう。
キャスティングがまた、おもしろい。
主な登場人物は、
窪塚俊介。窪塚洋介の弟。
満島真之介。満島ひかりの弟。
柄本時生。柄本明の息子にして、柄本佑の弟。
長塚圭史。長塚京三の息子。
こう言っては失礼だが、いずれも、誰かの息子、あるいは誰かの弟、と形容される。父親や兄・姉の名が、常に持ち出される存在である。
しかしこのキャスティングが、見事にはまっているのである。
この映画全体にただよう、鬱屈した雰囲気は、このキャスティングによるところも大きいのではないだろうか。
映画のパンフレットでは、なんと大林宣彦監督と山田洋次監督の対談が収録されている。
かたや、松竹という会社の中で、映画会社の従業員としてさまざまな制約に縛られながら表現を追求してきた監督。かたや、映画業界のセオリーを無視してアマチュアとして自由に映画を撮ってきた監督。いわば水と油の関係である。
山田洋次監督には、同じような時代の青年たちを描いた群像劇映画「ダウンタウンヒーローズ」があるが、その作風はもちろん、大林監督の「花筐」とは似ても似つかない。
両監督は、お互いのことを、本音の部分でどう思っていたのか。
活字化された対談からは、緊張感を感じ取ることができるのみである。
以上、思いつくままに感想を述べてみた。
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