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髪の毛にまつわる話

3月5日(月)

引っ越したあとも、「前の居住地」の近くの病院に、定期的に通うことになっている。

今日はその日である。1時間以上かけて、「前の居住地」に向かう。

(せっかくだから、ついでに散髪も済ませてしまおう)

と、「前の居住地」に住んでたときの行きつけの散髪屋さんに行った。

散髪を担当してくれたリーさんとは、1月末に、涙の別れ(?)をしたばかりだった。

この日記には書かなかったが、リーさんは最後、本来ならば見習に任せてしまうはずの、カラーリングと顔そりまで、すべて丁寧にリーさんの手でおこなってくれたのである。

「もう、引っ越しちゃうんですよね」

「また、ふらっと訪ねることもありますよ」

「そうしてください」

と言って、今生の別れと相成ったのである。

それから1カ月ちょっとたって、結局、またリーさんの店に訪れることになった。

お店に入ると、リーさんは、

(えっ?)

という顔をした。

(おまえ、引っ越したんじゃねえの?)

といわんばかりの顔である。

こうなるとバツが悪いのだが、仕方がない。

前回、これが最後だと思って、カットから顔そりからカラーリングから、全部自分の手で丁寧にしてくれたのだが、今回は、カット以外は全部見習に任せてしまった。

(前回とはうって変わって、ぞんざいに扱われているなあ)

と苦笑するばかりである。

まあ、ふだん通り扱われるほうがこちらとしても気が楽なのだが。

会計を済ませたあと、いつも通りに店を出た。

リーさんは、(あいつ、きっとまた来るぞ)と思ったことだろう。

ところで、髪の毛、で思い出した。

昨年の夏に体調を崩してから、治療のせいで髪質がだいぶ変わってしまった。

髪質が変わると、見た目の印象がずいぶんと変わるらしい。

1年に1度、ある会合でしか会わない人がいて、その人は、その会合で僕に会うのを楽しみにしているようである。

先日、その会合でその人に会ったときに、

「あれ、ずいぶんと雰囲気が変わりましたね」

と言われた。前回お会いしたのは、体調を崩す前だった。

「そうですか?」

「どうしてだろう…そうだ!髪の毛が短くなったんだ!髪の毛が短くなったんですよ!」

と、周りに人が大勢いるのに、大きな声で私に言った。

私はその話題はやめてくれ、と思っていたのだが、その人はさらに続けた。

「イメチェンですか?」

「いえ、そういうわけでは…」

もうほっといてくれよ、と言いたかったが、その人はまだ考え込んでいる。

「うーん、なんか違うんですよねえ」

まだこだわっているようだ。しばらくして、はたと気づいたようだった。

「あっ!髪の毛がストレートになりましたよね!以前はクセッ毛でしたよね!」

「はあ」

「そうだ!髪がストレートになったんだ!ストレートパーマでもかけたんですか?」

またまた、周りの人に聞こえるような大声で言う。

もう勘弁してくれよ!こっちはいま、髪の毛のことをいちばん気にしているんだから、そっとしておいてくれよ!

「色気づいたんですか?」

ご当人は悪気なくおっしゃったのだろうが、こちらとしてはもう泣きそうである。

よっぽど、治療のせいで髪質が変わったんです、と言いたかったが、それを言うとさらに追い打ちをかけるように大騒ぎされそうなので、やめた。

(早くこの話題、終わってくんないかなあ…)

と、ひたすら、この話題が終わるのを待ったのであった。

他人様(ひとさま)の体について無責任に言及することは、かくも相手につらい思いをさせてしまうものなのか、と、私はこの一件から学んだのであった。

たとえそれが、どんな些細なことであっても、である。

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コメント

スロウな理髪店の隣市で見かけた理髪店のメニュー。

はたして君は何派?

ただ座って寝るだけの「眠狂四郎コース」派。

自ら頭皮マッサージを欠かさない「金田一耕助コース」派。

じっと堪え忍ぶ痛みを知っている「徳川家康コース」派。

あ、僕は1000円カット派です。

(注 各コースの内容はフィクションです。)

投稿: さくらんぼこぶぎ | 2018年3月 6日 (火) 13時11分

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