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依頼病棟

少し前に、強引な講演依頼のエピソードを書いたが、ありがたいことに、そういった依頼をいただくことがしばしばある。

先日も、電話をいただいた。

「毎年5月か6月くらいに、いつも総会を開いているんですが、その総会の場で講演をお願いしたいのですが」

依頼をしてきた方は、私もたいへんお世話になった方なので、ちょっと断りにくい。

「5月か6月ですか…。実は私、4月から3カ月間は、育児休暇を取りますので、仕事を入れてはいけないことになっているのです」

残念ですが、と断ろうとしたら、

「では、7月ならば大丈夫ですか?」

「ええ、まあ…」

「そうですか。では7月にしましょう」

と、なんと僕の都合に合わせて、その総会じたいを7月にするとその場で決めてしまったのだ。

「では、7月1日はいかがでしょう。日曜日ですが…」

「7月1日ですか??」

育児休暇が明けてすぐというのも、どうもねえ。

僕が渋っていると、その方は、

「では、7月1日か、翌週の7月7日の土曜日、7月8日の日曜日あたりを候補としましょう。会長とも相談しまして、日程を決めたいと思います」

「はあ」

さて、それから数日がたった、3月26日。

妻が破水し、いよいよ入院した日である。

陣痛が次第に激しくなり、いよいよ生まれるか、といった矢先に、携帯電話が鳴った。

「もしもし」

「もしもし、先日ご依頼した総会でのご講演の件ですが」

「はあ」

「7月7日ということでお願いしたいと思います」

僕はいま、それどころではなかったのだが、とにかく早く電話を終わらさなければと思い、

「わかりました」

といって電話を切った。

さて、いよいよ臨戦態勢である。

固唾をのんで見守っていると、また携帯電話が鳴った。

「たびたびすみません」

「どうしましたか?」

「先ほどの電話でお聞きすればよかったのですが、講演のタイトルを、仮題でもいいですので、お教えいただきたいと思いまして…。広報の関係がありますものですから」

ここから先は、どんな会話をしたのか僕自身もあまり覚えていない。

だいいち、それどころではないのだ。

「…ということで、ではこういった感じのタイトルでよろしいでしょうか」

「そうですね。それでお願いします」

僕も上の空だったせいか、タイトルがまったく思いつかず、どうもタイトルは先方に決めていただいたらしいのだが、記憶にない。

子どもが生まれたのは、それから約1時間後のことである。

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