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喰べた人

またまた大林映画の話。

大林宣彦監督の自主映画制作時代の作品に「喰べた人」(1963年)という16㎜フィルムの短編映画がある。

この作品にはなんと、無名時代の岸田森や草野大悟などが出演している。

それはともかく。

僕は大林監督の自主映画制作時代の作品の中で、伝説の映画「EMOTION 伝説の午後 いつか見たドラキュラ」よりも、この「喰べた人」のほうが、印象に残っている。たんに岸田森が出演していたせいかもしれないが。

レストランで、客たちが一心不乱に料理を食べている。

それを見つめる一人のウェートレス。

延々と食べ続ける客たち。映像はその口元をあますことなく映し出す。

それを見続けていたウエートレスは、やがて気を失う。

このあと、その女性は、コックによる開腹手術を受けるが、コックはまるで、料理を作るかのように手術をおこなう。開腹したお腹の中からは、人の顔がにょきっと出てきて、やがてその顔がおいしく焼き上がる。

とか、

その女性のクチから包帯が出てきて、レストランの客たちをグルグル巻きにしてしまう。

とか、文章で書くと、まるで何のことやらわからない映像が展開する。

ひと言で言えば、シュールな映像ということになるのだが、僕はこの映像に、少し共感する部分がある。

それは、僕自身も他人が何かを一心不乱に食べているのを見ると、まるで神経衰弱のようになってしまうのだ。

以前書いた「サクサク地獄」なども、そのあらわれかも知れない。

たまに、他の人と一緒にご飯を無心に食べていることに、耐えられなくなることがある。

で、他の人の食べているところを見たくないあまりに、僕以外の人間を、包帯でグルグル巻きにしてしまいたい衝動に駆られる。

だから「人が一心不乱に何かを食べる」ことをあますところなく映し出しているこの映画を見て、画面の中のウエートレス同様、自分も何かおかしくなってしまいそうになるのである。

俺はおかしいのか?

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