未来図書館
恥ずかしながら、町の図書館、というのを、ほとんど利用したことがない。
引っ越したばかりだし、いま住んでいる町の図書館がどんな感じなのか見に行こう、ついでに利用カードも作ろうと思い、はじめて町の図書館を訪れた。
町の規模にしては、やや小さな図書館だな、という印象を受けた。
「図書館に行くんだったら、ついでにこの本を返してきて」
と家族に言われ、返却用の本を持っていったのだが、図書館に着くと、カウンターに職員さんがいない。
(どこかに出はらっているのかな…)
そう思っていると、一人、職員さんらしき人がカウンターに戻ってきた。
「あのう…、本を返却したいんですけど」
「でしたら、あそこにある自動返却機に返していただければ結構です」
職員さんが指をさした方向を見ると、「自動返却機」と書いてある。
郵便ポストのように、平たい口が開いていて、どうやらその中に本を1冊ずつ入れていくらしい。
1冊1冊入れていくと、まるで本を飲み込むように、自動返却機が本を吸い込んでいく。
(本当にこれで返却できたのかなあ…)
若干不安に思いながら、再びカウンターに行った。
「あのう…利用カードを作りたいんですけど…」
「でしたら、あそこにある黄色い紙に必要事項を書いて、身分証明書と一緒に提出してください。カードはすぐに発行できますので」
「わかりました」
言われたとおりに必要事項を書いて、免許証と一緒にカウンターに出すと、ほどなくしてカードができあがった。
(せっかくだから、何か借りていこうか…)
私には、
「自分の専門に関わるコーナーにどんな本が並んでいるかを見れば、その町の図書館の知的レベルがわかる」
という勝手な持論があり、まずは、自分の専門に関わるコーナーを見てみることにした。
見て、びっくりした。
「トンデモ本」しか並んでないやないかい!
市民は、こんな「トンデモ本」ばかり読んでいるのか?
あるいは、図書館の司書さんの選定なのだろうか?
この図書館にはあまり期待ができないなあと、いささか憂鬱になった。
町の図書館に専門性を期待する私の方が間違っていることは重々承知しているが、それにしても「トンデモ本」ばかりというのは、あまりにもひどい。
気を取り直して、他のコーナーに行く。
文学全集はかなり充実しているようだ。
もう割り切って、この図書館は文学を借りるために利用することにしよう。
尾崎士郎にするか、佐藤春夫にするか迷ったあげく、「定本佐藤春夫全集」の一冊を借りることにした。
本を持ってカウンターに行く。
ふつう、カウンターには、「返却」とか「貸出」といったコーナーがあるものだが、そういったことがまったく書かれていない。
「あのう…この本を借りたいのですが」
「でしたら、あそこにある自動貸出機で手続きしていただければ結構です」
職員さんが指をさした方向を見ると、「自動貸出機」と書いてある。
「利用カードを機械に入れていただき、テーブルに本を置いていただくだけで、貸出手続きは完了です」
「???」
ちょっと何言ってるかわかりません、という感じだったが、いわれるがままに「自動貸出機」のところに行き、カードを機械に挿入し、テーブルの四角い枠の中に本を置くと、あら不思議、テーブルに置いてあったモニターにその本のタイトルが映し出され、
「この本を借りる場合は『貸出』を押してください」
みたいな案内が出て、それを押すと貸出手続きが完了となった。
いったいどうなっているんだ?本をテーブルに置いただけで、その本が何というタイトルの本かを機械が認識したぞ!
どこかでバーコードを読み取っているのかなあと思って機械を見てみたが、センサーみたいなものがついているふしもない。
わけがわからないまま、図書館をあとにした。
しかし待てよ。
つまりは、司書さんとまったくコミュニケーションをとることなく、本を借りたり返したりできたということになる。
むかしは、探している本を司書さんに聞いたり、司書さんに調べてもらったりすることで、本についての知識を深めたものだった。
それは、おそらく司書さんにとっても同じである。利用客の質問に答えたり、本を探したりすることによって、自らをスキルアップしていったはずである。
それができない図書館というのは、幸福な図書館といえるのだろうか。
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コメント
鬼瓦権三様
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未来市立幸福図書館レファレンス担当です。
お客様がお探しの本が見つかりましたので、通知いたします。
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請求番号は「013.8」で、現在、4館に在庫しています。
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※なお、本館のレファレンス業務は人工知能による全自動サービスとなっておりますので、お客様からこのメールに返信されても、ご返答はしかねます。
どうぞご理解くださいませ。
投稿: 幸福な図書館(こぶぎ) | 2018年4月18日 (水) 08時17分