成人式の思い出
2年くらい前から、「実家のある町」から依頼されて、あるお仕事をしている。
数ヶ月に一度、打ち合わせがあるのだが、その用務先の最寄りの駅というのが、「実家のある町」の中心に位置する駅で、市内でいちばんの繁華街を擁している。
子どもの頃は、自転車で、よくこの駅の周辺をぶらぶらしたものだった。
だがいま、駅の周りは、再開発によってすっかり変貌してしまって、駅に降り立っても、まったく懐かしさを感じない。
それで思い出した。
20歳の時、市民会館でおこなわれた成人式に参加した。
成人式では、久しぶりに、小学校や中学校の同級生に会う。
たいていは、建物の中のホールでおこなわれる式典には参加せずに、建物の外で、みんなとの再会に喜んで話し込むのである。
で、その後は、みんなでボーリングに行ったりするのだ。
ところが僕は、同級生たちとの談笑を、途中で切り上げなければならなかった。
なぜなら、「市長と新成人の懇談会」に出席しなければならなかったからである。
どういうわけか、市長と懇談する新成人のひとりとして、選ばれてしまったのである。
市民会館の一室に入ると、10人ほどの新成人がいた。
今となっては、市長とどんな話をしたのか、ほとんど覚えていないのだが、唯一、覚えていることがある。
市長が、「新成人のみなさんから、市に要望はありませんか?どうぞ若い視点から、忌憚なくご意見を言ってください」といったので、新成人ひとりひとりが、市に対して要望を発言することになった。そして、僕の番がまわってきた。
僕は、
「駅の南口の再開発を、やめてください」
と言った。その頃、駅の南口が再開発されるという話が持ち上がっていることを聞いていたからである。
僕は続けた。
「僕は、駅の南口の、あの雑然とした雰囲気が好きなのです。あれが、この町のよさだと思います」
その時の市長の反応がどうだったのか、よく覚えていない。
それから30年。30年かかって、駅の南口は大変貌を遂げた。
いま、そこで暮らしている人たちにとっては、便利になったのだろう。より暮らしやすい町になったのだろう。それはそれでよいことなのかも知れない。
しかし、失われたものもある。
だから僕は、30年前の発言を後悔していない。
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