映画的体験・その1
5月8日(火)
人生で、こんな日が来るとは思わなかった。
ある本の企画で、映画作家の大林宣彦監督にインタビューすることになったのである。
10代後半から大林監督の映画の熱烈なファンである僕は、映画のほとんどを見、著作のほとんどを読んでいる。30年来のファンである。
僕は映画とはまったく関係のない仕事をしているので、もちろん、仕事の上で大林監督と接点を持つことなどあり得ないだろうと思っていたのだが、人生とは不思議である。
ある本の企画に途中から参加することになり、雑談で「実は、大林監督のファンなんですよ」と「編者のOさん」に言ったら、
「実は、この本の中で、できれば大林監督のインタビューしたいと考えているんです」という。
「え!じゃあ、本の目次では大林監督のお名前と僕の名前が並ぶんですか?」
「そうです」
それだけでもうれしいことなのだが、ひとつ気がかりなことがあった。
周知の通り、大林監督は、一昨年に肺がんの第4ステージ「余命3カ月」を宣告されたが、治療を受けながら映画を作り、昨年末、「花筐(はながたみ)」を完成させた。
奇跡的に病を克服されたとはいえ、傘寿を迎えられた監督の御体調が心配である。
3月の末に、「編者のOさん」から連絡が来た。
「ただいま、大林監督インタビュー取材OKのご連絡が入りました!!!
つきましては、ぜひ鬼瓦先生にもインタビューに同席いただくことをお願いできないでしょうか。
大林監督の映画が鬼瓦先生に与えた影響、お仕事とリンクするお話など、ぜひ直接インタビューにご同席いただくことで、読者にお伝えいただくことが叶いましたら光栄です」
なんと!「編者のOさん」だけでなく、僕もインタビューに同席させていただくことになったのである。
僕は、
「メールをいただき、天にも昇るような気持ちです。これほど幸福なことはありません」
と返信した。
そして今度は「出版社のOさん」が粘り強く日程調整を行い、5月8日(火)にインタビューが実現する運びになったのである!
「編者のOさん」と私がインタビュアーとなり、それに「出版社のOさん」がサポートする、という形で、当日は3人が同席することになった。
インタビューの時間は1時間である。その1時間の間に、本の趣旨に合うお話しを引き出すような質問をしなければならない。
「出版社のOさん」が、あらかじめ質問事項をお伝えするのがよいでしょうと提案し、「編者のOさん」と僕とで相談したあげく、質問の柱を4つほどに絞り、質問の意図を書き添えて、先方にお送りした。
あとは当日まで、インタビューのイメージトレーニングをしなければならない。
大林監督の過去の映画を見直してみたり、過去の著作を読み直してみたり、テレビ出演番組を見直してみたりしたのだが、それをすればするほど、何をどう準備していいかわからなくなってしまった。
極めつけは,5月5日深夜にNHK-BS1で放送された「最後の講義 大林宣彦」の、3時間におよぶ完全版を見て圧倒されてしまい、ますますどうしていいかわからなくなってしまった。
この上、いったいどんなことをインタビューすればいいのか、完全に行き詰まってしまった。
そのことを妻に話すと、「自分を賢く見せようとしなくてもいいんじゃない。監督が気持ちよくお話しできるように心がけさえすればいいんじゃないの」
と言われ、なるほどそうかも知れないと思ったのだった。
かくして、インタビュー当日を迎えた。
(つづく)
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