和尚さんのもとに、SNS経由で一斉送信のメッセージが来た。
「今週末開催予定の同窓会、リスケをお願いします」
和尚さん、この「リスケ」がよくわかんない。
和尚「珍念や!」
珍念「へーい」
和尚「リスケじゃがのう。うちにあったかのう?」
珍念「リスケって、いったい何です?」
和尚「おまえ、寺方にいてリスケを知らんやつがあるか!俺はお前に教えたはずだぞ」
珍念「へえ、すんません。忘れました」
和尚「なぜ忘れる?いいことがある。近所に物知りのご隠居がいるから、そこへ行って聞いてみなさい」
珍念「何て言って行くんです?」
和尚「リスケがおありですか、と」
珍念「あるって言いましたら?」
和尚「あると言うたら必要だからと言ってちょっと借りてきなさい」
珍念「借りに行くんでも品物を知らないで行っちゃおかしいんですけど…何のことなんです?」
和尚「先方へ行ってそう言ってみれば向こうの返事であらかた様子がわかるで。行ってみなさい!」
珍念「へーい。…こんにちは」
ご隠居「おや、誰かと思えば御小僧さんじゃないか?まあまあこっちへお上がりよ」
珍念「どうもすいませんです、ごちそうになりましてね」
ご隠居「なんだい、その「ごちそうになりまして」てえのは」
珍念「「まんまおあがり」といいますから、御膳をご馳走になるんでがしょ?」
ご隠居「いや、おまんまじゃないよ。まあまあこっちにお上がり、と言ったんだ」
珍念「あー、そうですか。「まあまあおあがり」か。なんだ、メシじゃねえのか。なんだがっかりさせやがって」
ご隠居「なんだよ。飯を食うつもりで来てんのかい?ヘンなやつだな。お上がり」
珍念「へい、どうも」
ご隠居「今日はどうした」
珍念「へえ、今日は物知りのご隠居さんに、聞きたいことがございましてね」
ご隠居「何だ?」
珍念「あのう…リスケがおありですか?」
ご隠居「何だって?」
珍念「ですから、リスケがおありですか、とこう言ったんです」
ご隠居「リスケ…あるぞ!」
珍念「ありますか!?」
ご隠居「到来物のリスケだがね。
珍念「弔いもんですか?」
ご隠居「「弔いもん」じゃねえ、「到来物」だよ。よそから頂いた…」
珍念「そうだろうねえ。買うわきゃねえからね」
ご隠居「口が悪いねどうも。…えー、リスケを切っておくれ、ばあさんや。薄く切るとまたぐずぐず言うからな。了見なんぞ見られるといけないから厚く切った方がいいよ。お茶入れかえておくれ、ばあさん」
珍念「おう!ばあさん、そうだよ。薄く切っちゃいけねえよ。リスケの薄いのは痛々しいからな、ばあさん。厚く切った方がいいよ、ばあさん。お茶入れかえてね、ばあさん。ね、ばあさん」
ご隠居「この野郎、ばあさんばあさん言いやがって。てめえがばあさんばあさんということがあるか!」
珍念「妬くな」
ご隠居「妬いてやしねえよ、まったく。どうもしょうがねえなあ。どうだい、リスケの味は」
珍念「これがリスケですかい?」
ご隠居「そうだ。これが正真正銘のリスケだ」
珍念「ずいぶんと美味しいんですなあ、リスケは」
ご隠居「舶来ものだからなあ」
珍念「薄情者ですか?」
ご隠居「薄情者じゃない、舶来ものだよ。外国からわたってきた」
珍念「なるほど、どうりでうめえわけだ。で、ご隠居、お願いなんですが」
ご隠居「何だ」
珍念「うちの和尚さんが、リスケが必要だからぜひ借りてきなさいって言ってましてね」
ご隠居「貸すなんて野暮なことは言わんよ。もう一つあるから持って行きなさい」
珍念「ありがとうございます」
(帰り道)
珍念「ご隠居さんもバカだねえ。どう考えたってこれはビスケットじゃないか。さてはご隠居さん、ビスケットを知らないな。よし、こうなったらヤホーで調べてみよう」
ピッピッピ…
珍念「なになに、リスケとは、リスケジュールのことで、日程再調整のことだって?しかしこんなマヌケなビジネス用語みたいな言葉、得意げになって本当に使っている人がいるんだねえ。…それはそうと、待てよ、ということは、うちの和尚さんもリスケを知らないんじゃないか?そうだ、試しにこのビスケットをリスケだと言って渡してみようか。違うって言ったら知ってるということだし、そうだって言ったら知らないってことになるな」
和尚「戻ってきたか。リスケはあったか?」
珍念「ありました」
和尚「どれ、見せてみなさい」
珍念「でも和尚さま、リスケをご存じなんでしょ?」
和尚「もちろんそうだ」
珍念「じゃあもったいぶらなくて教えてくれてもいいじゃありませんか」
和尚「ばかもん!お前が持ってきたものがリスケなのかどうか、確かめねばいかんだろ!見せてみなさい」
珍念「へぇ」(…と、おそるおそる差し出す)
和尚「なるほど、これがリスケか…。いや、リスケが洋菓子であることくらい、俺はお前に教えたはずだぞ!」
珍念「フフフッ」
和尚「何が可笑しい!」
珍念「いえ…」
和尚「よし、リスケを、同窓会に持っていこう」
珍念「どうして持っていくんです?」
和尚「どうしてってお前、幹事が「リスケをお願いします」と言ってたんだぞ。ここはひとつ、上等なリスケを持って行ってみんなを驚かしてやろう」
珍念「みなさん、驚くと思いますよ、フフフッ」
和尚「何が可笑しい!」
和尚さん、奮発して上等なビスケットを買って同窓会場に行ってみたが、人っ子一人いない。
それもそのはず、同窓会の日程は変更されていたんですから。和尚さん、それを知らなかった。
和尚「うむ。誰もいない。どういうことじゃ。おかし(お菓子)な話だ」
鬼瓦亭権三(ごんざ)でございました。
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