本当の舞台裏
ラジオの友は真の友。
「問わず語りの権之丞」、はじまりでございま~す。
はい、こんばんは、講談師の鬼瓦権之丞でございます。そして目の前に座っているのは、笑い屋のシゲフジ君、ということでね。
このキャラクターが出てきたってことは??
はい、愚痴ですね。
(シゲフジ君の笑い声)
以前にインターネットで連載していたエッセイが、いよいよ本になることになりましてね。
今日、編集者から、「見本ができました」と連絡がありました。
たぶん、来週あたりに本屋さんに並ぶんじゃないかって思うんですけど。
まあ、本が売れないこのご時世に、無名であるアタクシの本を出してくれるっていうんだから、もう感謝しかありませんよ。
編集者の方とは、一度、出版社のある企画で一緒にお仕事をしましてね。
…この本がまったく売れなかった。
(シゲフジ君の笑い声)
にもかかわらず、
「権之丞さんの本を、どうしても出したい!権之丞さんの文章をもっと世間に知ってほしいんです!」
と言ってくれましてね。
おいおい、一回失敗してるじぇねえか。まだ懲りないのかよって。
(シゲフジ君の笑い声)
バッカじゃないの?って思ったんですけど、
(シゲフジ君の笑い声)
まあそう言ってくれるなんて、ありがたいことですよ。
その編集者の方にとっては、背水の陣なわけです。
一回失敗してますから、もう失敗は許されない。
(シゲフジ君の笑い声)
確実に売れる本を出さないといけないわけです。
しかしいかんせん、アタクシの文章が、とっても地味。
(シゲフジ君の笑い声)
最初から最後まで、ビックリするくらい地味な内容なわけです。
(シゲフジ君の笑い声)
こう言っちゃ何ですけど、とても大きな出版社なので、社内のたくさんの人を納得させる企画書を書かなくっちゃいけない。
いかにこの本が売れる本になるかっていうことをプレゼンするわけですな。
そのためには、内容は変えようがないんで、本のタイトルで勝負!ってことになったそうです。
アタクシ自身が考えたタイトルは、地味なんで、ぜんぶ却下されました。
(シゲフジ君の笑い声)
で、編集者の方が、「絶対に売れる!」というタイトルを考えて、企画書を出したら、見事通ったそうです。
で、あとでその企画書を見せてもらったんですけど、そのタイトルが……
えっ!!!こんな安易なタイトル??
手垢にまみれたタイトルじゃん!
しかも、そのタイトルにふさわしい文章なんか書いてないし!
(シゲフジ君の笑い声)
詐欺で訴えられるぞ!
(シゲフジ君の笑い声)
…といった感じのタイトルだったんです。
いやいや、わかりませんよ。たぶん、その編集者の方のプレゼンが、とてもよかったんだと思うんですよ。
…でも、そのタイトルでOKを出した企画会議って、どうなんだろう…。
(シゲフジ君の笑い声)
で、さすがにこのタイトルは勘弁してくださいって言いましたよ。
「まあ、これは企画を通すための仮タイトルですから。もっと良いタイトルを考えましょう」って。
で、別のタイトルになったんですが、これもまたねえ…。
「さおだけ屋はなぜ潰れないのか」的な。
(シゲフジ君の笑い声)
「チーズはどこへ行った?」的な。
(シゲフジ君の笑い声)
まあ、そんなタイトルになったわけです。
ちょっと一昔前に流行ったタイトルじゃないのかい???
まあね。本のタイトルってのは、自分の子どもに名前を付けるようなもので。
言ってみれば、自分の付けた名前が却下されて、お医者さんに名前を付けてもらったようなもんですよ。
編集者からしてみれば、売るべき本の一冊にすぎませんが、こっちは、これから先もずっと、その本のタイトルを背負って生きていかなければならないわけです。
だから、まあカチンときたりするわけですよ。
でも他の知り合いの編集者に聞いてみたら、そういうケースはよくあることで、それが理由で編集者と著者が揉める、なんてことはよくあるそうです。
アタクシは、とにかく自分の文章が世に出るんだったら、多少の妥協は仕方がないと思って、このあたりが妥協点だろうと思って従いましたけどね。
ただ、それだけじゃないんです。
「各章の見出しも、こちらで考えさせていただきます」
って言って、こっちの考えたタイトルをぜんぶ直されちゃった。
…で、できあがった各章の見出しが、
うーむ。安物の情報番組が考えそうなタイトルだなって感じになっちゃった。
(シゲフジ君の笑い声)
いや、そう言ったら語弊があるかな。つまり、アタクシのセンスに合わない。
(シゲフジ君の笑い声)
しかし、文章に手を入れられるよりもマシだと思って、これも妥協しました。
ホームページに載った「編集者のおすすめ情報」というのがまたスゴい。
「一話完結型の内容になっているため、空いた時間に、気軽に読むことができます」
おいおい、気軽に読める本じゃないぜ。
(シゲフジ君の笑い声)
多くの読者がおわかりのように、アタクシの文章は、読むとものすごく頭が疲れるんです。
(シゲフジ君の笑い声)
取っつきやすそうだなって思って読んでいったら、硬くて噛めないよ!みたいな。
(シゲフジ君の笑い声)
人懐っこそうな犬だなって思って手を差し出したら、いきなり噛まれたり、
(シゲフジ君の笑い声)
そんな文章です。
ま、でもなんとかして多くの人に読んでもらおうという編集者の涙ぐましい努力に、アタクシは感動したわけですよ。
何度も言いますが、このご時世、無名なアタクシが勝手気ままに書いた文章を本にしてもらうなんて、ありえないことです。しかも大手の出版社で。
こうして、かなりアクロバティックな方法で企画を通していただいた編集者の方には、感謝してもし尽くせません。
…と言うことで、今日も無事じゃなく終わりましたけどね。
今回も最初から最後まで愚痴と言い訳でしたね。
(シゲフジ君の笑い声)
番組ではあなたからのメッセージ、お待ちしております。
お相手は鬼瓦権之丞でした。ありがとうございま~す。
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コメント
本を出されることは存じ上げていましたが、正直タイトルに違和感を感じておりました。
若干古い。最初の2文字は使うと諸々変な輩が沸く。流行に乗っかって内容のないベストセラーを出すような著者ではない。そもそも連載にその話題あったか?等々…
いやでも、ひねりすぎて一周回ったのか?とも思い…
いやはやこの記事で謎が解けました。
この夏2冊目の課題図書にします。
投稿: 江戸川 | 2018年8月29日 (水) 08時01分
権之丞さん、シゲフジ君こんばんわ。
さて、僕も本のタイトルの最初の2文字を考えてみようと、
まずは書店に足を運んでフィールドワークを実施した後、
わが市に最近開店した、これがあれば都会の証ともなっている某有名コーヒー店に赴きまして、
チョー都会的な環境に我が身をおいて、
持てるクリエイティビティを尽くし、
値段がお高めのコールド・ブリュー・コーヒーまで注文して、
2時間考えて出た結論が、
脳活 老眼 血糖(値)
の3つでして。
そもそも、本屋で目にとまる単語自体に偏りがあったようです。
結局、タブレットを取り出し、「こじらせ新書」を検索してしまいましたが、
ここで喫茶店に、本ではなくタブレットを持って来てしまっていること自体、今日の出版事情の本質を現わしていたようで。
といったところで、今日も無事じゃなく終わりました。
それでは。
投稿: ラジオネーム・こぶぎ | 2018年8月30日 (木) 00時31分
ラジオネーム・江戸川さん、ありがとございます。愚痴を言った甲斐があったというものです。最初の2文字は、時節柄、この2文字を入れれば本が売れると出版社が考えたようです。
ぜひ同期のみなさんにも宣伝してくださいね。
ラジオネーム・こぶぎさん、ありがとうございます。「こじらせ新書」ってジャンルがあったんですね。地上波の放送が終わってから、全然チェックしていませんでしたから。
投稿: onigawaragonzou | 2018年8月30日 (木) 01時39分
「こじらせ新書」コーナー投稿
・拓本はなぜ題名に描かれないのか
・タイトルの一部を大文字にすれば、7割の本は売れる
・全ての「気軽に読める」書物は、晦渋である。
・老眼と血糖値に効く万能日本史レシピ30
投稿: ラジオネーム・こぶぎ | 2018年9月 8日 (土) 14時21分