ラングドシャへの道・前編
職場の同僚が、京都の出張みやげにラングドシャを買ってきた。
いまや、京都みやげは、八ッ橋ではなくラングドシャである。
それで思い出した。
数年前だったか。
京都みやげに、ラングドシャを買ってきた。
ところで、ラングドシャって、何だ???
ラングドシャの意味がわからない。
和尚「珍念や!」
珍念「へーい」
和尚「ラングドシャじゃがのう。うちにあったかのう?」
珍念「ラングドシャって、いったい何です?」
和尚「おまえ、寺方にいてラングドシャを知らんやつがあるか!俺はお前に教えたはずだぞ」
珍念「へえ、すんません。忘れました」
和尚「なぜ忘れる?いいことがある。近所に物知りのご隠居がいるから、そこへ行って聞いてみなさい」
珍念「何て言って行くんです?」
和尚「ラングドシャがおありですか、と」
珍念「あるって言いましたら?」
和尚「あると言うたら必要だからと言ってちょっと借りてきなさい」
珍念「借りに行くんでも品物を知らないで行っちゃおかしいんですけど…何のことなんです?」
和尚「先方へ行ってそう言ってみれば向こうの返事であらかた様子がわかるで。行ってみなさい!」
…また始まった。
何でもかんでも、わからない言葉を落語の「転失気(てんしき)」で煮しめるのは、やめれ!
とにかく恥ずかしいことに、ラングドシャの意味がわからないのだ。
物知りの妻に聞いてみると、
「そんなこともわからないの?」
と言われた。
「有名なお店の名前?」
僕はてっきり、ラングドシャを「ラングド社」もしくは「ラングド舎」というフランスあたりの有名なお菓子店の名前かな?と思ったのだ。「ぴょんぴょん舎」みたいに。マジな話である。
「まさか、『ラング土砂』という意味でもないよねえ」
妻は呆れた様子だった。
「ラングドシャ」の「シャ」の意味、わからないの?」
「わからない」
妻は少し考えて言った。
「じゃあ、『シャノアール』ってあるでしょう」
「ああ、喫茶店の」
「シャノアールって、どういう意味?」
そういえば、シャノアールの意味がわからない。ルノアールと同じ、画家の名前かなんかかな、と思っていたのだ。
「画家の名前?」
「それはルノアール。ラングドシャのシャと、シャノアールのシャは、同じ意味」
ますます混乱してきた。
シャノアール、シャノアール、シャノアール…。
シャノアールという言葉を聞いて、30年以上の思い出が、鮮やかによみがえってきた。
高校1年のときのことである。
吹奏楽団に入っていた僕は、部活が終わると、みんなと一緒によく喫茶店のシャノアールに行った。
1つ上の学年の先輩たちがよくいっていたお店で、そこについていったのである。
高校生になって喫茶店に入るなんてのは、大人になった気分がしたものだ。
1つ上の学年に、O先輩という人がいた。
まことに独特な感性の持ち主で、いまは有名な漫画家である。
高校時代は、頼まれもしないのに、毎日回文を考えて、音楽室の前の黒板にその回文を披露していた。ほら、よくモスバーガーのお店の前に置いてある季節のおたよりを書いた黒板みたいな感じで。
「猪木の胃」とか、そんな回文である。
ちょっと独特の感性を持っていた人なんだが、その先輩が、喫茶店シャノアールに行くと、必ずすることがあった。
喫茶店に行くと、注文を聞く前に、店員さんがまずおしぼりとお水を持ってくるでしょう。
で、そのあと、コーヒーなんかを注文して、コーヒーを飲みながら、べちゃくちゃお喋りした。
問題はそのあとである。帰り際、O先輩はとんでもないことをするのが日課だった。
O先輩は、お水の入ったコップの上に、おしぼりが入っていたビニール袋を使って、まるでラップで蓋をするかのようにしてコップの口をふさぎ、それを手で押さえる。
で、そのコップを、水がこぼれないように蓋にしたおしぼりのビニール袋を押さえながら、ひっくり返してテーブルに置く。
つまり、コップの飲み口の部分が下に、コップの底が上になるように逆さまにするのである。
ここまで、わかるかな?
で、最後にコップの飲み口に蓋をしていた、おしぼりのビニール袋を、マチャアキが新春かくし芸大会でよくやっていた、「テーブルクロス引き」さながらに、サッと引くのである。
するとどうなるか?
テーブルの上に、水の入ったコップが、逆さまに置いてある格好になるのである!
で、テーブルをその状態のままにして、レジで会計を済ませ、みんなでお店を出る。
困るのは、店員さんである。
テーブルに、水の入ったコップが、逆さまに置いてあるのだ!
これをこぼさないように、片付けなければならない。
ひどいイタズラである!!!
いいですか。よい子のみなさんは絶対にマネをしてはいけませんよ!
僕たちは、そそくさとお店を出るわけだから、テーブルを片付けるときの店員さんの反応を見たことがない。
だから、実際、そのあとどのようなことになったのか、まったくわからないのだが、たぶん、さぞかし怒っていることだろうと、予想した。
いま思えば、性懲りもなくそんなイタズラを何回もしたのに、よく出入り禁止にならなかったもんだ。
いまでもたまに、シャノアールの系列店に入ると、何とも言えない罪悪感にさいなまれることがある。
それもこれも、O先輩がすべて悪いのだ!!!
…と、ここまで思い出して、
アレ?俺はいま、何について考えていたのか?
とわからなくなってしまった。
そうそう、「シャノアール」の意味だ!
というか、そもそもは「ラングドシャ」の意味だ!
はたして「ラングドシャ」は解明されるのか??
ラングドシャまでの道のりは遠いなあ。
(次回に続く)
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