なんとかソーリ
「ラングドシャへの道・後編」を書こうと思ったが、とりあえずほかの話。
9月29日(土)
来年4月から娘を保育園に入れないといけないので、そのための説明会やら見学会が、これからしばらく続く。
待機児童問題は、ほんと、シャレにならないくらい切実だからね。そのことを考えるとひどく鬱になる。
今日の午前中は、ある保育所の説明会である。
不思議なのは、「説明会にはお子さんを連れてこないでください」とあった。
いやいや、子どもを預けるところがないから保育所に預けるんでしょう?説明会に出るために、子どもを誰かに預けなければならない、というのは本末転倒である。
仕方がないので実家の母に来てもらい、娘の面倒をみてもらうことにして、保育所に出かけた。
説明会を聞きに来た人は、ざっと5~60名くらいいただろうか。保育園に入園できるのかが、かなり切実であることがよくわかる。競争率、高そうだなあ。
僕らのように夫婦で来ている人たちもいれば、どちらかが来ているという場合もある。おそらく、どちらかが説明会に参加して、もう一人が子どもの面倒をみているのだろう。
さて、説明会が始まった。
この保育所は、「なんとかソーリ」教育を基盤に置く保育所だ、と最初に説明があった。
「なんとかソーリ」?初めて聞く言葉である。
あとから調べてみると、イタリアの女性医学者の名前だそうで、その人が開発した教育法らしい。
園長先生が、2時間近く、保育所での教育の実例をパワポで示しながら、この保育所の教育方針などを説明していた。
その間、私たちは、ひたすらそのお話しを聞く。
「なんとかソーリ教育は、あの天才将棋少年も受けていたんですよ」とか。
その教育法が、いかにすばらしいかという説明が続いた。
「私たちは、2020年の政府の教育改革に方針に沿った教育を考えております」
2020年の教育改革?そんな改革があるとは、知らなかった。何でもかんでも、2020年なんだな。
「まずは、アクティブラーニングです」
そう言って、この保育所でのアクティブラーニングの実例を説明した。
写真に映し出された園児たちは、実ににこやかに、そして積極的に、先生の与えられた課題に取り組んでいた。
「続いて、キャリア教育です」
キャリア教育?
「給食などを当番制にして、仕事に対する意識を高めるようにしています」
なるほど、キャリア教育ねえ。
「アクティブラーニング」だとか「キャリア教育」だとかは、「前の職場」にいたころにさんざん聞かされた単語で、僕のような頭の古い人間は、「しゃらくせえ。お上の考えることなんて、ほんと、上っ面だけだよな」と思いながら、職場の方針に心の中で反発をしていた。
それが、すでに保育所にまで浸透していたとは、驚きである。
小学校に上がる前から「アクティブラーニング」「キャリア教育」かよ。ちょっとかわいそうだよなあ。
その保育所では、漢字や、簡単な英会話なんかも教えているらしい。
むかし、上岡龍太郎が、
「僕なんか、小学校に上がる前に、ひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字、簡単な英会話ができてましたから」
と、得意の「インテリギャグ」をかまして、鶴瓶に「ホンマでっか?師匠!」と突っ込まれていたもんだが、いまやギャグなんかではなく、本当に保育所では、
ひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字、簡単な英会話
を教えているんだな。
パワポのスライドに映し出されてる子どもたちは、みんな行儀正しく、楽しそうに笑っている。だれ一人、取り乱す者がいない。
僕はそれに違和感を覚えた。
暴れる自由がないではないか。
落ち着きのない子は、きっと、居心地が悪いだろう。ドロップアウトしてしまうかも知れない。
そういえば、タモリがこんなことを言っていた。
幼いころ、幼稚園に行けと言われて、幼稚園ってどういうところだろうかと思って見学しに行った。
すると、
「♪ギンギンギラギラ 夕日が沈む」
と、みんなでお遊戯をしていた。
俺はああいうことはできない。 なんであれが楽しいんだ?それで、なんで俺があれをやんなきゃいけないんだ?となって、親に「幼稚園は絶対に行きたくない。お遊戯なんか絶対にやりたくない」と言って、幼稚園に行くのをやめた。
スライドを見ながら、この話を思い出したのである。
ここから先は、僕のヒネクレ根性から出た妄想なのだが。
何とかソーリ教育、それ自体は、本来とてもいい教育なのかも知れない。
しかし、それをこの国の幼児教育に翻案する際に、問題は起きないのだろうか。
「同調圧力」という、この国特有の悪しき社会規範に、あてはめてはいないだろうか?
説明会を大人たちだけに限定したのはなぜなのか?
まずは親にこの教育法のすばらしさを洗脳することにあったのではないだろうか?
なんとなく、自己啓発セミナーと同じにおいを感じたのは、僕の心が病んでいるからだろうか?
午後は、すっかりグッタリしてしまった。
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