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謎のナトリさん

謎のタカダさん

謎のオカベさん

10月6日(土)

3日前の水曜日、ドキュメンタリー映画のトークイベントで、高校時代の恩師のKeiさんにお会いしたときのことは、すでに書いた。

そのとき、映画の主人公、ツトムさんがトークゲストにいらっしゃる6日(土)にももう一度映画を見に来て、同い年のツトムさんとぜひお話しがしたい、とおっしゃったので、

「僕もぜひご一緒しますよ」

とお約束した。

で、そのとき、Keiさんとこんなやりとりがあった。

「この日(土曜日)の夕方はねえ、俺の古い友人のナトリさんの、出版記念パーティーがあるんだよ」

「ナトリさん、ですか?」

「で、ナトリさんもこの映画を見に来たいと言っていてね」

「そうですか」

「そのあとに、ナトリさんと二人で、出版記念パーティーの会場に移動しようと思う」

「なるほど」

「このナトリさんって人が、とっても面白い人でねえ」

「はあ」

「もし土曜日にあなたが来たら、あなたにも、ナトリさんをぜひ紹介したい」

「それは楽しみです」

で、土曜日を迎えた。

映画館に着くと、すでにKeiさんとツトムさんがいらっしゃった。

「ちょっと早めに来てねえ。おかげで、ツトムさんとじっくりお話しすることができたよ」

「そうでしたか。それはよかった」

初対面の瞬間を、逃してしまった。

「今日はナトリさんも一緒に来てるんだが…。あれ?ナトリさん、どこに行ったんだろう?さっきまでここにいたんだが」

Keiさんはあたりをキョロキョロと見渡すが、ナトリさんが見つからない。

「おかしいなあ。トイレかなあ」

そう言っているうちに、開場の時間になり、座席に着いた。

全席指定だったのだが、Keiさんは同じ列の3つくらい横の席だった。

Keiさんの座席のほうを見てみるが、Keiさんの隣にナトリさんが座っているような気配もない。

(ナトリさんは、どこにいるのだろう…?)

ほどなくして、映画が始まった。

今日は満席である。

1時間半の上映が終わり、その後、映画の主人公、ツトムさんが登壇して30分ほどのトークイベントである。暖かい雰囲気のうちに、トークイベントが終了した。

ホールを出たとこで、ツトムさんが観客のひとりひとりに、「スベリヒユ」を配っていた。

Keiさんも僕も、その列に並んで、「スベリヒユ」を受けとった。

「映画の終わったあとも、ツトムさんとお話ししたかったんだが…、いまはそれどころではないようだね」とKeiさん。

「ちょっとここで待ちましょう」

映画館に併設されている喫茶店で、ツトムさんを待ちながら、Keiさんといろいろとお話しをした。

それにつけても、気になるのはナトリさんである。

「あれ?おかしいなあ。ナトリさん、どこに行っちゃったんだろう?」

ホールを出たところにも、ナトリさんはいなかったのである。

「トイレだ!トイレに行ったんだな」

そういってKeiさんはトイレのほうを見に行ったのだが、ナトリさんはいなかったようである。

「携帯電話とかで、連絡はつかないんですか?」

とたずねたら、

「それがねえ。僕らの仲間の中でも、ナトリさんと僕は携帯電話を持っていないってことで、迷惑がられてるんだ」

「そうですか…」

打つ手なしである。

「先にパーティー会場に行っちゃったのかなあ…」

「ここを何時に出なければならないんです?」

「5時からパーティーが始まるから、4時にはここを出ないといけない」

時計を見ると、まだ少し時間に余裕がある。

スベリヒユを配り終わったツトムさんがやって来てた。

「今日は会えてよかったです」

「こちらこそ、お会いできてよかったです」

「ツトムさんとは初めて会うけれども、いろいろな共通点がありました」とKeiさん。「ツトムさん、生まれて間もなく中耳炎になったって、お父さんが日記に書いておられたでしょう。僕も2歳の時に、左耳が中耳炎でやられてしまってねえ」

「そうですか。不思議な縁ですねえ」

「また、縁があればお会いしましょう」

「ええ」

高校時代の恩師と、ツトムさんが、旧知の間柄のようにお話ししている様子は、見ていて不思議だった。

結局、ナトリさんにはまったく会えないまま、Keiさんは1人で映画館を出て、駅に向かった。

ナトリさんは、どこへ行ったんだろう?

…というか、ナトリさんって、何者なんだ?

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