再会の町
11月9日(金)
「前の前の勤務地」の隣町に行く。今年の2月以来である。
目的は、この町にある文化施設の企画展を見に行くことである。僕もほんの少しだけ、お手伝いした。
その文化施設は、町のはずれの、とても雰囲気のいい場所にあるのだが、惜しいことにそこにたどり着くための公共交通機関がない。仕方がないのでレンタカーを借りて行くことにした。
事務室を訪れ、S館長に久しぶりにお会いした。僕がこの地にいたころ、いろいろとお世話になった方である。
企画展をじっくりと見せていただく。平日の昼間ということもあって、見学者は僕だけである。
S館長は、この町につとめる「悪友のKさん」に連絡を取ってくださり、ほどなくして悪友のKさんが到着した。
「どうも、ごくろうさまです」
「ご無沙汰しています」
展示を一通り見終わったあと、再び事務室に戻って、S館長や悪友のKさんとしばらくお話しした。
職員が2~3名というこぢんまりした事務室の中に、Sさんがいた。
「鬼瓦さん、お久しぶりです」
僕は「前の勤務地」にいた14年間、単身赴任だったのだが、1年だけ、妻がこちらに来て一緒に住んでいた。いまから15年くらい前のことである。
当然、妻はこちらに来ても知り合いがいるわけではなかったのだが、こちらにいた1年弱の間、あるところでアルバイトをしていた。そのアルバイト先にいたのが、Sさんだったのである。
「こちらにいらっしゃったんですか」
「ええ、今月からここで働いています」
これもまた、偶然である。先月にここに訪れていたら、会えなかったのである。
「○○さんはお元気ですか?」
○○さん、とは僕の妻のことである。
「ええ、元気です」
「鬼瓦さんがいらっしゃるというんで、○○さんにちょっとしたメッセージを書いたんです」
そう言って、Sさんは小さな封筒を私にくれた。
「これを、渡していただけますか?}
「もちろんです。妻も喜ぶと思います」
「15年前、同じところでアルバイトしていたころ、まわりがみんな、年齢が上の方ばかりで、○○さんだけが同世代だったので、とても心強かったんです」
「そうですか」
わずか1年にも満たない期間だったと思うが、Sさんにとってはいまも印象に残っているようだった。
「○○さんがこの地にいらっしゃる機会は、あまりないのでしょうね」
「そうですね。僕が出張に来たりすることは多いんですが」
「またお目にかかりたいです。ぜひご家族でいらしてください」
「そうですね。一度家族で来たいですね」
僕は、Sさんの旦那さんと一緒に仕事をしたこともある。縁とは、まことに不思議なものである。
事務室でひとしきりお話しをしていると、とっくにお昼を過ぎてしまっていた。
「そばでも食べに行きましょう」と悪友のKさん。
S館長やSさんとお別れして、Kさんの案内で町のお蕎麦屋さんに行った。
「このお店は初めてですか?」
「ええ」
「この店の女将さんは、前の東京オリンピックのときに陸上選手として出場したんですよ」
この小さな町から、オリンピック選手が出たのか。当時としては、たいへんなことだったろう。
蕎麦を食べながら、悪友のKさんとあれこれお話しした。
「またお目にかかります」
「また来てください」
僕はKさんと別れ、この町をあとにした。
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