調整要員
来週、韓国のある団体のお客様が大挙して職場に来られるという。
そのときの昼食会に参加してもらいたいと上司に言われ、その日は出勤しておりますんでようござんすよと、返答申し上げた。
うちの職場にとっては、かなり重要なお客様らしい。で、僕は少しばかり韓国語がわかるので、同席させようということになったんだろう。
ところが今日、上司の秘書さんが僕のところに来て、
「あのう、来週の昼食会の件なんですが」
「ええ」
「あちらからは、8人がいらっしゃるとのことで」
「はい」
「こちらも同数にしなければならないということになりまして…」
もちろん、それは外交の鉄則である。
「もしかしたら、鬼瓦先生にはご遠慮いただくことになるかも知れません」
「ようござんすよ」
つまり、こういうことである。
昼食会には当然、うちの職場からもしかるべきメンバーが参加しなければならない。
もしその日、しかるべきメンバーが全員揃えば、僕が昼食会に参加する必要はない。
もし、しかるべきメンバーの中で、参加できない人が出た場合、数合わせに僕が昼食会に参加する。
…と、そういうことなのである。
それはそれで、全然かまわないのだが、何度となく、こんな経験をしてるよなあと、この話を聞いて思い出した。
「前の職場」にいたころのことである。
出張講義、というものがあった。高校に出向いていって、職場の宣伝がてら、高校生に講義をするというイベントである。
出張講義は、職場の宣伝にもなり、お客さんを獲得するチャンスなので、できるだけ、高校側の意向に沿った内容の講義をすることになる。
高校側に「この先生に来てもらいたい!」という希望まで聞くこともある。
で、うちの部局で圧倒的に人気のあったのが、世界的にも有名なS先生であった。
S先生の研究は、世界的にも注目を浴び、その成果は何度もニュースに取り上げられた。
なにより、とてもロマンのある研究だった。
当然、出張講義のリクエストも、「S先生に来てほしい」という高校が多かった。
S先生はまじめだから、できるだけその希望に応えて出張講義に出向いておられたが、なにしろ忙しい先生なので、全部のリクエストに応えることはできない。
そんなとき、代打として、よく僕がかり出されたのである。
S先生を期待していた高校に僕が出向くのだから、当然、高校生の反応は、みな落胆した表情になった。
そのことを思い出したのである。
そんなふうに、僕は調整要員として使われることが多い。
そういえば、こんなこともあった。
韓国留学時代にお世話になった先生に呼ばれて、その先生の主催する韓国の国際学術会議で発表することになった。
ところが、その国際学術会議のテーマは「中国」。僕の専門とするところとは、まったく関係がない。
発表者も、僕以外は中国人と、(中国を専門とする)韓国人である。日本人は僕1人だけ。
ではどうして僕が、まったく畑違いの国際学術会議に呼ばれたかといえば、韓国の学界では、3カ国以上の発表者が集まらなければ、「国際学術会議」とは名乗れないからである。
中国人と韓国人だけで構成してしまっては「国際」という冠をつけられない。それでどうしても、アリバイとして1人でもいいから日本人が必要となる。
ただ、たった1人のために、日本語の通訳を雇うのはもったいない。
ということで、韓国語でコミュニケーションがとれる僕が選ばれたというわけである。そうすれば、韓⇄中だけの通訳で済む。要は、「国際学術会議」と名乗るための数合わせとして、僕が呼ばれたのだ。
今週末に職場で行われるイベントも、同じである。
メインは中国や韓国から来た方のお話しであって、僕は完全な時間調整要員である。
メインの方々の発表時間が予定の時間よりも大幅にオーバーしてもいいように、僕の発表の時に、時間調整することが期待されているのだ。
このように僕はむかしから、「調整要員」「数合わせ要員」「代打要員」としての役割を期待されてきた。
調整要員として生きるのもまた、技術がいることである。
そういう生き方も悪くないと、最近は思うようになってきた。
そういう生き方が、いちばん性に合っているのかも知れない。
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