習作
今年の前半、30代の若い映画監督と仕事をする機会があった。
その映画監督は、つい最近、第1回の監督作品であるドキュメンタリー映画を完成させたのだが、まだ上映館が決まらないという話だったので、僕は、都内にある老舗の映画館の名前をあげて、映画を売り込んだらどうです?と助言してみた。今年の春くらいのことだったと思う。
するとその若い映画監督は、
「もちろん、その映画館に売り込みに行って、映画館のスタッフの方に映画を見てもらいました。でも、断られたんです」
という。理由を聞くと、
「『この映画には心に響くものがない』と言われたんです」
と、かなり悔しそうな表情で答えた。
僕はその、都内にある老舗の映画館に何度か足を運んだことがある。お金をかけた大作映画ではなく、小品だが良質のドキュメンタリー映画や劇映画を専門に上映するところで、そういう映画が好きな人からすれば、聖地みたいな映画館だった。
やっぱりそういうところは敷居が高いのかな、と思っていたら、9月末になって、その若い監督の映画が、都内の別の小劇場で公開される運びになった。
当初は、上映期間が2週間の予定だったのが、その映画の評判が若い人たちを中心に口コミで広まったようで、最終的には2カ月ほどのロングランとなった。
そればかりでなく、12月からは、首都圏にある別の小劇場でも上映される運びとなったのである。来年は、大阪や名古屋でも上映されるという。
新聞やテレビ、ラジオなどでも取り上げられるようになり、それがさらに集客につながったものと思われる。
で、最初の「都内の老舗の映画館」に話を戻すと。
「心に響かない」と酷評された映画が、一方で、若い人たちを中心に支持される、というのは、どういうわけだろう?ということが、僕はたいそう気になった。
ここから先は、完全な僕の想像だが。
「都内の老舗の映画館」で僕が見た映画は、どれもおもしろいものだった。映画に対する選球眼はさすがだなあと、思ったものだった。
ただ、「都内の老舗の映画館」で上映される映画には、ある特徴があるようにも思えた。
それは、「メッセージ性の強い映画」ということである。別の言い方をすれば、「主張の強い映画」である。
映画を通じて、虐げられた人たちに光を当てるとか、社会の理不尽さ訴えるとか、問題を提起するとか、そういうスタンスの映画である。
僕は、そういう映画は、嫌いではない。
映画のド素人なので間違っているかも知れないが、ドキュメンタリー映画にはもともと、そういうことを求められていた時代があったのではないか。
社会的弱者に光を当てたり、権力の理不尽さを告発したり、その表現手段として、ドキュメンタリー映画が作られることが多かった。
たぶん、僕より上の世代の人は、ドキュメンタリー映画とはそういうもの、という認識が強いのではないだろうか。
ドキュメンタリー映画は、権力による理不尽な圧力や社会の間違った通念を告発し、それを多くの人に気づいてもらうための、切実な表現手段だったのだ。
では、その若い映画監督のドキュメンタリー映画はどうだろう。
おそらく監督は、何か政治的な主張をしようとか、社会を大きく変えていこうとかいったこととは無縁なところで、この映画を完成させた。ドキュメンタリー映画を作ろうと思ったきっかけは、大上段にかまえた主義主張なんかではなく、監督個人の「素朴な疑問」なのである。
その結果、監督自身の興味の赴くままに対象を捉えた映画として、完成した。
おそらく、その若い映画監督にとって、ドキュメンタリー映画に政治的主張を込めたり、映画を通じて社会を変革したりしようという意識は、微塵もないものと思われる。
それは、それを見る若い世代も、同じである。
そもそも若い世代は、ドキュメンタリー映画に、政治的主張をのぞんだり、社会の変革への動機付けを求めたりはしていない。実に素朴にその映画を見ているにすぎないのだ。逆に、そういう「におい」のする映画は、敬遠される。
老舗の映画館には上映を断られたけれど、若い層には支持されている、というのは、そういうことが背景にあるからではないだろうか。
どちらがいいとか、悪いとかではない。ちょうどその世代の中間にいる僕は、どちらの気持ちもよくわかる、としかいいようがない。
なぜ、そんなことをうだうだと考えたかというと、僕の業界でも、「研究に対する、世代によるスタンスの違い」といったようなことを感じているからである。これはいま、どこの分野でも起きている現象なのではないだろうか?
うーむ。言いたいことがうまく説明できない。説明するのが下手だなあ、俺。
ナンダカワカラナイ文章になってしまったが、せっかく書いたので、心覚えのためにとりあえずアップしておく。
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