1月24日(木)
家を6時に出て、再び北へ向かう。1泊2日の旅である。
うちの職場に2週間ほど滞在する、韓国のチェ先生をお連れして、巡検である。チェ先生は30代半ばの女性で、日本語がほとんどわからない。
せっかくの機会なので、うちの職場にアルバイトに来ている大学院生のI君にも同行してもらうことにした。
新幹線で3時間45分ほどかかる、新幹線の終着駅まで行く。自宅からの時間を考えると、昨日に引き続き、片道5時間の旅である。
前回「あり得ない移動」と書いたのは、昨日の「特急のすれ違う駅」の町で仕事を終えたあと、いったん東京に戻り、翌日再び、北へ向かう新幹線に乗るという移動が、かなり無駄だという意味である。
しかし、韓国から来たお客さんに、「現地集合でお願いします」というわけにはいかないので、いったん東京に戻り、翌日朝、東京からお客さんをお連れすることにしたのである。
考えてみれば、3年ほど前のちょうど同じ頃に、やはり韓国からのお客さんを同じ場所にお連れしたのであった。
「一般人としてインタビューされました」
あのときもたしか雪が降っていたが、今回もまた、大雪である。
「こんなに雪が多くて寒い町だとは思いませんでした」とチェ先生。
「昨日までは降ってなかったんですけどねえ。今日になって突然積もりましてね」
と、現地でご案内いただいたIさんがおっしゃった。どうも僕は、雪男(雨男的な意味の)であるらしい。
午後、雪の中を3時間ほどIさんに懇切にご案内いただき、充実した巡検が終わった。
夕食は、せっかくなので、チェ先生にこの土地の郷土料理を食べてもらうことにした。
今回は、あいにく国営放送の取材が来ないので、粛々と食事が進んだのだが、「旧正月」にはじまるチェ先生のお話がなかなか面白かった。備忘録的に書いておくと、
・今年の旧正月は2月5日(火)。前後の1日もお休みになるから、旧正月のお休みは2月4日~6日。しかも2月2日と3日は土日なので、2月2日~6日まで5連休となる。
・旧正月は、嫁が大変である。夫の実家に行き、旧正月の間、家事をしなければならない。男性だけが祭祀を行い、女性は厨房にいて料理を作り続ける。
・とくに夫の実家がある慶尚道は、保守的な地域なので、いまだに「女は家事をすべきである」という意識が強い。
・自分の夫は、ふだん家事をしてくれるのだが、実家に帰ると、自分が家事をする。夫の両親が、「嫁が家事をすべきである」という強い社会通念を持っているからである。
・今年の旧正月は5連休で、夫の両親が海外旅行に出かけることになっているので、今年はそうした家事からは解放される。なので夫と二人でソウルに遊びに行くつもりだ。
・韓国にはクリスチャンが多いが、クリスチャンが必ずしも祖先祭祀にかかわらないとは限らない。クリスチャンでも、伝統的な祖先祭祀にかかわる人もいる。
…そこから、韓国のさまざまな風習に話がおよぶ。
・自分の業界には、新しい現場仕事を始める前に、開土祭というお祭りがある。そこでは、豚の頭を土地の神様に捧げる儀式があり、終わったあと、豚の頭を機会で潰して、薄切りにしてみんなで食べる。(これは僕も以前に聞いたことがある。参考:豚の頭はどこへ行った? )
・もし開土祭をやらないと、些細なトラブルが起こったときに「開土祭をやらなかったからだ」と言われてしまうので、やることにしている。
・自分が担当しているいまの現場は、2014年にはじまり、ずっと継続しているのだが、2014年に開土祭をやったきりで、そのあとは何もしていない。最近になって些細がトラブルが起こると、「開土祭をやってからずいぶん立ってしまったから、土地の神が怒っているのだ」と言う人が増えてきたので、今年の4月頃にもう一度開土祭を行う予定である。
・開土祭をやるべきだと主張しているのは、職場の中でも、20代~30代の若い人が多い。意外と若い人が、そういう古い伝統にこだわっていたりする。
・あと、現場に果物の木がある時は、果物の木を切ってはいけないという風習がある。この風習はおそらく、この業界特有のものだろう。どうしても木を切らなければならない場合は、お酒を木の周りにまいてから伐木する。
…そこから、話題は「占いの館」に移る。
・韓国では、自分の名前が気に入らなかったりすると、改名することが多い。たとえば夫婦の名前の相性が悪かったりする場合、名前を変えたりする。あと、小さい頃に名前が理由でいじめられたりした場合も、改名することがある。改名の手続きは、比較的簡単である。
・韓国では、自分の名前が気に入らない人が多い。自分もそうだ。自分の名前は、あまりかわいい名前ではない。
・改名する時は、「占いの家」というところに行く。そこには、神様が憑依する人がいて、神のお告げによって、さまざまなことを予言したりする。
・自分もいちど、就職がうまくいかないときに、「占いの家」に行ったことがあるが、「今年中に決まるだろう」というお告げを受けて、本当にその年に就職が決まった。
・車を買ったとき、夫の両親が、「占いの家」から「符籍」(お札のようなもの)を買ってきて、それを燃やして灰にして、車の周りにまいた(…このあたり、ちゃんと聞き取れたか不安…)。自分はこの風習を知らなかったが、夫の両親がそれをしているのを見て初めて知った。
・占いに関しては、「占いの家」のほかに「哲学館」というものがある。「哲学館」というのは、四柱命理学に基づいて占うもので、神のお告げと言ったスピリチュアルなものではない。
・人によっては「占いの家」が好きな人もいるし、「哲学館」が好きな人もいる。
…とまあ、ざっとこんな感じの話題が続き、僕としてはとても面白かった。
専門分野の話よりも、こういう話の方がずっと面白い。
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