靴はどこへ行った
3月26日(火)
4月からの保育園入園に備えて、娘の靴を買った。当然、小さい靴である。
3月21日(木)、この日は春分の日である。
父の墓参りをしたあと、娘を連れて実家に立ち寄った。そこで、靴を履いて歩く娘の姿を母(つまり娘にとってのおばあちゃん)に披露した。歩く、といっても、靴を履いてオモテを歩いたことはまだなく、もっぱら家の中で歩くだけである。娘はうれしそうに、家の中を歩いていた。
さて、その翌日の夜のことである。
僕は職場での会合の準備のため、職場に泊まり込んでいたのだが、妻から連絡が来た。
「靴の片方が見当たらない。家の中をくまなく探してみても見つからない。家にないということは、実家に置いてきたか、車に落ちているかのどちらかだと思うので、車を探してみてほしい」
僕はこの日、車で通勤していたのだが、すでに夜で真っ暗なので、明るくなった翌朝に車内をさがすことにした。
もう一つの可能性は、実家である。実家の母に電話をかけて聞いてみた。
しばらく探してもらったが、実家にはないという。
僕はそのときのことをだんだん思い出してきた。たしか、帰る間際に、「お世話バッグ」の中に靴が入っていることを確認していた。そのときは、両足の靴が揃って入っていたのだ。だから、実家に落ちているはずはないのだ。
だが、母は電話口でこんなことを言った。
「帰るときに、玄関で靴を脱がしていたわよね。そのときに落ちたのかしら」
母によると、娘は家の中で靴を履いたままだったが、帰る段になって、妻が玄関で娘の靴を脱がして、娘を車に乗せたのだ、という。
「でも、いま玄関も探してみたけど、なかったわねえ」
「わかったわかった。もういいよ。明日車の中を探してみるから」
といって電話を切った。
するとしばらく立って、母から電話が来た。
「思い出したわ。玄関で靴を脱がしたあと、○○さん(妻の名)が、その靴を自分の服のポケットに入れたのよ。だからきっとポケットの中に入っているはずよ」
「いま何時だと思ってるんだよ!もう12時だよ!」
いつもは9時には寝ているはずの母が、夜中の12時に電話をかけてきたということは、その間ずーっと靴のことを考えて眠れなかった、ということなのだろう。見かけによらず、気に病むタイプなのだ。
「はっきり思い出したのよ!○○さんに確認してみてちょうだい」
「もういいったら!」
といって、電話を切った。
玄関で娘の靴を脱がした妻がその靴をポケットに入れているのを見た、という母の証言は、どうにも納得できないものだった。
なぜなら、妻は、ポケットに何かを入れるということを、ひどく嫌うからである。
妻が、無意識であるにせよ、靴をポケットに入れることなど、ありえないのである。
そもそも僕は、実家を出る際に「お世話バッグ」の中に靴が両足入っていることを確認しているのだ。
妻も、玄関で靴を脱がせた記憶はないと言っている。
はたして、真相はどっちなのか?
翌朝、明るくなってから、車の中をさがしたが、やはり靴は見つからなかった。
となると、残る可能性は、わが家で靴が消えた、ということである。
妻に聞いてみると、実家から戻った後、娘の寝室のクローゼットの中に、靴をしまったのだという。
で、翌日の金曜日、クローゼットから靴を取り出そうと思ったら、片方がないことに気づいたというのである。
「クローゼットの中をいくら探してもないのよ」
クローゼットといっても広さはたかが知れている。見つかりにくいという空間ではないのだ。
うーむ。消えた靴の片方は、どこに行ってしまったのか?
かくして、数日が過ぎた。
そして今日。
妻から連絡が来た。
「発見!何度も確認したクローゼットから出現。不思議」
なんと!結局、消えた片方の靴は、同じクローゼットの中にあったのだ!
「こんなことって、あるのかね」と妻。
「あるよ」と僕。
以前、似たような体験をしたことがあるのだ。
「今日の空脳」
つまりこれは、空脳なのである。
これで、一件落着、と思ったが、ひとつ大きな問題が残った。
それは、「帰るときに、娘の靴を妻が脱がせてそれを自分のポケットにしまった」という、母の記憶である。
母は、かなり確信をもってこの記憶を何度も主張したのだが、この記憶は、まったくのでたらめだった、ということになる。
これもまた、空脳なのだろうか?
さらに不思議なのは、この靴が見つかったのが、偶然にも娘の誕生日の日だったということである。靴の片方がすぐに見つかったわけではなく、あたかも娘の誕生日を待っていたかのように見つかったのである。
ひょっとしてこれは、神様がくれた誕生日プレゼントなのか?
…というわけで、娘は1歳になりました。
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