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悪気がないのが悪いのか、心が狭いのが悪いのか

ここ最近、僕が苦手だな、と思うタイプの人は、「悪気がない人」である。

もっというと、「ありがた迷惑な人」である。

もっというと、「こっちが別に望んでいるわけではないのに、あたかも望んでいるかように便宜を図ろうとする人」である。

その一例。

僕の通勤時間は、片道2時間30分である。何回か、駅を乗り換えなければいけない。乗換駅の中には、5分くらい歩かなければならない距離の駅もある。

ある日のことである。

仕事が終わって、電車に乗っていたら、知り合いに出くわした。

「あら、お帰りですね」

「ええ」

僕はちょっと、悪い予感がした。なぜならその人は、僕が言うところの、「悪気がまったくない人」だからである。

とてもいい人で、いつも満面の笑みをたたえている。

その知り合いとは、たしか同じ駅で降りるはずだった。

で、その駅(仮にA駅としよう)で降りたとき、やはりその知り合いの人も、同じ駅で降りた。

僕はB駅始発の別の電車に乗り換えるために、A駅から5分ほどの距離を歩くことになっていたのだが、その知り合いの人は、A駅が自宅の最寄り駅だった。

「ではまた」

と言って、知り合いと別れてB駅に向かういつもの道を行こうとしたら、

「あら、そっちの道に行くんですか?」

「ええ。乗り換えるもので」

「B駅に行くんだったら、もっと近道がありますよ」

「そうなんですか?」

「知りませんでした?」

その知り合いは、まるで勝ち誇ったように、満面の笑みを浮かべて「知りませんでした?」と僕に言った。僕がその近道とやらを知らないことを知って、急に親切心が沸いたらしい。

「案内します。こっちですよ」

僕は、いつも歩き慣れている道の方がよかったのだが、とにかくその知り合いは、よかれと思って僕をその近道とやらにいざなったのである。

(めんどうくさいなあ)

と内心思いつつ、ついていくことにした。

「階段で下に降りずに、このまま家電量販店に入るんです」

A駅には、家電量販店が隣接しており、改札を出たところの通路で直結しているのだが、どうもその家電量販店の中を突っ切って、家電量販店の端っこにあるエレベーターで地下まで降りると、B駅の改札口の近くに出るというらしい。

「これだと、わざわざ階段を降りなくてもB駅の改札口に出られますよ」

その知り合いは、意気揚々と、家電量販店の中を先陣切って歩いて行く。

しかし、である。

家電量販店の中、というのは、モノがゴチャゴチャと置いてあって、通路も狭く、歩きにくい。それもそのはずである。そもそも突っ切るために作られているわけではないのだから。それが僕にとってはかなりのストレスだった。それよりも、最初から乗り換え目的のためだけに作られた広い道を歩いた方が、気が楽なのである。

やっとのことで家電量販店の端っこにある、エレベーターにたどり着いた。

「あとはこのエレベーターを降りるだけです。どうです?あっという間でしょう?」

「え、ええ」

「じゃあ私はここで」

「どうもありがとうございます」

知り合いと別れた。

ところがこのエレベーター、待てど暮らせど来ない。

ま、エレベーターというのは、えてしてそんなものである。

で、ようやくエレベーターが来たので、乗って地下まで降りたのだが、B駅の改札口とはまるで違う方向である。

(おかしいなあ…)

すると、さっきの知り合いが、息を切らせて走ってきた。

「すみません!さっき教えたエレベーター、間違ってました。別のエレベーターでした!」

「そうですか…」

「こっちの方から抜けると、B駅の改札口に行きますから!」

「わかりました」

時計をみると、もう時間がない。僕は走って、改札口に向かったのであった。

目的の電車にはなんとかギリギリに間に合ったのだが、これならば、日ごろ自分が歩いているルートのほうがずっとマシだったと、ひどく後悔した。

その知り合いからすれば、知らない近道を教えてあげた、ということで、恩を売ったくらいの気持ちなのかも知れないが、僕にとっては、結果的に「ありがた迷惑」なのであった。

後日、その知り合いに会ったときに、

「近道、どうでした?早かったでしょ?」

と聞かれたので、

「ギリギリでした」

と答えた。

「すみません。かえって余計なことをしてしまって…」

と反省されたようだったが、その知り合いはこれからも、悪気なくいろいろなことを教えてくれるのだろう。

…とここまで書いた結論。

「鬼瓦君、あなた、心が狭い!」

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コメント

最近、悪気があるのに何故かよいことをしてしまう。

いわば「ありがた迷惑」の反対で、「迷惑ありがた」がられる人になってしまうのである。

例えば、イタズラでひょう干しを送りつけたら、思わぬ映画的イベントになっちゃうし、

おもしろレストランに呼び出したら肋骨骨折に響いて笑い死にするかと思えば、フラミンゴの奇跡が生まれちゃうし。

まあ結果的には、自ギャク的に笑い死してはいたけれど。

それはさておき、この記事だって、もし「B駅に行くんだったら、もっと近道がありますよ」の問いに、

「そうなんですか?」ではなく、

「ええ知ってますよ。この2つの駅の乗り換え方は初めての人には難しいらしく、ヤフー知恵袋に質問がゴマンと載っていますし、ユーチューブにも乗り換え動画が何本もアップされていますから。乗り換え動画を見れば、地下道の出入口に家電店経由で行く案内板がちゃんと出ていますし、普段ぼーっと歩いていなければ、絶対気がつくと思いますよ。

それにエレベーターで行き来できるので、トランクを引きずって空港に向かう人は、ここで乗り換えるのがオススメルートらしいんです、余り知られてませんけど。

僕だってこの間、娘をベビーカーに乗せて地下鉄でオサレな街の美術館に行ったときに、地上になかなか出られなくて困りましたからね。そういう、事情のある人にはエレベーターが使えるといいですから。

店内が混んでるから狭いのどうのこうのなんて、通路とその人の体積比の問題ですから、気の持ちようですよ。きっと、心が狭いんじゃないんですか、そんな了見の人は。

というか、僕はここらへんの地理にめちゃめちゃ詳しいんですよ。カラーリングのできる美容室とか、おいしい韓国料理店とか、いい店があるんですが、知りませんでしたか?」

と悪気満々で答えれば、

「すみません。かえって余計なことをしてしまって…」

と相手は立ち去ったはずです。

もっとも、これだけしゃべれば因果応報、始発電車には結局乗り遅れると思いますけど。

投稿: イノセントこぶぎ | 2019年3月 8日 (金) 13時55分

こぶぎさん、正解です。

というか、このわけのわからない記事を読んだだけで場所を特定しているのは、もはや私の脳の中のイメージを読み取っているとしか思えない。

投稿: onigawaragonzou | 2019年3月14日 (木) 01時02分

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