元祖・斧を持つのが世界一絵になる男
「サラリーマンあるある」の第2回にいく前に、ちょっとブレイク。
遅ればせながら、スタンリー・キューブリック監督の映画「シャイニング」(1980年)を、この年齢になって初めて見た。
ホラー映画が苦手な僕は、ずっと敬遠していたのだが、カメ止めを観た勢いで、録画しておいた「シャイニング」も観ることにしたのである。
雪深い山の上のため冬期は休業になる豪華ホテルには、冬の間だけはメンテナンス係のみがホテルに滞在する。
そのメンテナンス係として採用されたのは、小説家(ジャック・ニコルソン)とその妻、そして幼い息子の家族であった。
小説家は、冬の間の閉ざされた空間で、思い切り小説が書けると思い、メンテナンス係を志望したのだが、話はそう簡単ではなかった。
雪に閉ざされただだっ広いホテルの中で、だんだんその精神を蝕んでいくのである。
まあ映画の内容は措くとして、キューブリック監督の映像は、それだけでゾクゾクする。
幼い息子が三輪車でホテルの廊下をぐるぐると走り回るのを、後ろから追いかけて撮影する疾走感
とか、
誰もいない、だだっ広いホテルのロビーで、小説家(ジャック・ニコルソン)がひとりでカタカタとタイプライターを売って小説を書いている不気味な感じ
とか、いわゆる本当に怖い場面ではなく、ちょとしたホテル内での日常の風景も、観ていてゾクゾクするのである。
で、無知な僕は、かつて「斧を持つのが世界一絵になる男」として、韓国映画俳優のキム・ユンソクの名をあげたことがある。
だがこれは、僕が映画に対していかに無知だったかを示すことになった。
「斧を持つのが世界一絵になる男」の元祖は、ほかでもない、ジャック・ニコルソンなのである!
もう一つ、僕がこの映画でゾクゾクしたのは、小説家が、自分では傑作を書いたつもりで打っていたタイプライターの文字がすべて、
「All work and no play makes Jack a dull boy」
と書かれていたことである!
このシーンがあることで、彼の精神が蝕まれている様子がよくわかる。
このシーンを観て思い出したのだが、大林宣彦監督の映画「麗猫伝説」(もともと火曜サスペンス劇場の枠で1983年に放映)に、似たような場面がある。
伝説の大女優が住むと噂される離れ小島の屋敷に招かれた脚本家(柄本明)は、女優に気に入られ、その屋敷で彼女のために脚本を書くことになる。だが彼は、その屋敷の中で、死んだはずのその大女優に生気を吸い取られ、次第に精神を蝕んでいく。
精神を蝕まれた彼の、タイプライターに残された脚本には、自分の名前である「志村良平」という文字が、繰り返し書かれているに過ぎなかった。
「麗猫伝説」の放映が1983年、「シャイニング」の公開が1980年だから、「麗猫伝説」のこの場面の元ネタは、「シャイニング」だったのだな。
「シャイニング」以後、小説家や脚本家の狂気を表現する手法として、この表現は定番化していくのだろう。
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