南さんと結婚した東さんが東さんを演じた
今日も書くことがないので、どーでもいい話を一つ。
山崎豊子原作の「白い巨塔」の映像化作品で僕が好きなのは、なんといっても1978年にフジテレビで放映された田宮次郎版の「白い巨塔」である。
この中で僕が好きなエピソードがある。以下は、ドラマを見ているという前提で書く。
浪速大学医学部付属病院第一外科部長の東教授(78年版では、中村伸郎が演じた)は、ドラマの中では最も権威的な医学部教授として描かれている。当然、その妻である東教授夫人も、そうした権威的な世界に生きている。浪速大学の医学部教授の夫人たちは、「くれない会」という特権的なサークルを作っていて、東教授夫人は、その副会長を長年勤めている。
東教授夫人は虚栄心が強く、時には夫以上に医学部内の動向に敏感で、なんとか自分や自分の夫が出世できないか、とそのことばかり考えている。
ドラマを見れば誰もがそう思う、と思うのだが、この東教授夫人、鼻持ちならない上流夫人で、その特権意識に支配された言動は、見ていて腹が立つ。本当にイヤなヤツだなあ、と思わせるのである。ことによると、この役を演じた女優自身の地の部分が出ちゃってるんじゃないか?ってくらい、権威主義的、封建主義的な言動が心底頭にくるのだ。
ややこしいのは、この東教授夫人の東政子役を演じたのが、東恵美子という女優である。こうなるとますます、役と女優の区別がわかんなくなっちゃう。だって役名も本名も東さんなんだから。
ところがこの東恵美子さんという女優は、実際のところ、自分が演じた東教授夫人とは似ても似つかない生き方をした人なのだ。
ウィキペディアによると、夫は社会心理学者の南博という人で、2人の夫婦関係は「夫婦別姓の草分け」「自由結婚」「別居結婚」「日本のサルトルとボーヴォワール」と呼ばれ、当時、マスコミなどでも話題となったというのだ。
つまり、ドラマの中の東教授夫人の生き方とは、まるで正反対の実生活を送っていたのである。
それで、あの東教授夫人のいけすかなさを、躊躇なく演じきったというのは、プロ意識以外の何物でもない。東恵美子さん本人は、東教授夫人のような生き方に我慢ならないものを感じていたに違いないのだ。
まったく生き方の異なる東さんの役を、もう一人の東さんが演じる。
僕はこのエピソードを知ってから、
「人間というのは、自分と対極にあるものに対してこそ、その本質をつかむことができるのではないだろうか」
と思うようになった。
ところで、東恵美子さんの夫は南博さん。僕でも知っている有名な社会心理学者である。
南さんと結婚した東さんが、姓を「南」に変えず、「東」のまま仕事を続けたことは、それぞれが個人として、自分が進むべき方向を進んでいったことを象徴しているようで、これもまた深い話である。
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