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もう一度見たいドラマ

僕が小学生の頃、テレビ朝日で「判決」というドラマがあった。

たしか、木曜日の夜10時に放送していたと思う。

主人公は、高橋英樹扮する弁護士で、刑事裁判とか民事裁判とか、いろいろな事件の裁判を扱う法廷劇だったと記憶する。

だいたいが1話完結だったと思うが、その中で、2週にわたって放送されたエピソードがある。当時かなり話題となった、「ピアノ殺人事件」を題材にしたドラマである。

ウィキペディアによると、ピアノ殺人事件とは、1974年(昭和49年)に神奈川県平塚市で起きた事件で、ピアノの音がうるさいという理由で、近隣の者に母子3人が殺害された事件である。近隣騒音殺人事件の第1号として知られている。

ちょうど昭和40年代(1960~70年代)は、高度経済成長期で、団地などの集合住宅が各地に作られるようになったが、騒音対策が必ずしも追いついていたわけではなかった。団地における騒音が問題となっていたことが、この事件の背景にあったものと思う。そういう意味では、ある種の社会問題が引き起こした事件であったともいえるのではないかと思う。

犯人は逮捕され、事件から1年後の1975年、1審で死刑判決が出て、さらに1977年に死刑が確定した。

ピアノ殺人事件が起こった頃、僕はまだ小学校に上がっていなかったので、事件そのものの記憶はないのだが、小学校高学年の頃に、「判決」というドラマを見て、ピアノ殺人事件のことを知ったのであった。

犯人役を演じたのは、泉谷しげるだった。いまでもはっきり覚えているのだが、このときの泉谷しげるの演技がとても鬼気迫るもので、当時小学生だった僕は、この人は本当に犯人なのではないかと、怖くてたまらなかった。

前編と後編のうち、前編は、ピアノの騒音に悩まされた犯人が、母子3人を殺めるまでの過程をドラマ化したもので、犯人の孤独や狂気、鬱屈した思いが、泉谷しげるによって見事に表現されていた。

後編はたしか、法廷シーンを中心にしたエピソードだったように思う。法廷に立った被告は、前編のときの狂気とはうって変わって、まったく生気が抜けた様子で、「早く自分を死刑にしてほしい」と力なく裁判長に訴える場面が印象的だった。このときの弁護士役が、高橋英樹だった。

後にも先にも、あのときの泉谷しげるの演技を越える殺人犯をドラマで見たことはない。

この「判決」というドラマについて、もっと思い出したいと思い、調べてみたのだが、ほとんどデータが残っていない。

ウィキペディアによると、「判決」というタイトルのドラマは、もともとは1962~1966年にかけて、全200回にわたり、NET(現テレビ朝日)で放送されたドラマらしい。このときの弁護士役は佐分利信であった。

法律事務所を舞台にした、社会派ドラマの代表的作品だそうで、当時かなりの反響を呼んだドラマだったようである。もちろん僕は、この時点ではまだ生まれていないので、このドラマを見たことはない。この「判決」は、1978年10月~1979年4月にかけて、高橋英樹を主役としてリメイクされたという(全26回)。

そして、それとは別に、1979年10月~1980年4月にかけて、テレビ朝日で高橋英樹主演の同名のテレビドラマ(全26回)が放送されたが、これは以前の「判決」とは無関係の、まったく別のドラマだという(こちらは和久俊三の小説が原作で、弁護士・花吹省吾を主人公とする)。 

つまり、「判決」というタイトルのドラマは、

1962~66年(全200回)のオリジナル版。

1978~79年(全26回)のリメイク版

1979~80年(全26回)の別バージョン版

の3種類が存在するというのである。

この3つのうち、僕が小学校の時見ていたドラマは、3つめの1979~80年版であったと思われる。そしてこの1979~80年版の中で、「ピアノ殺人事件」のエピソードが放送されていたと考えるのが妥当である。

なぜなら、ピアノ殺人事件が起こったのが1974年。死刑が確定したのが1977年。つまり、ドラマはその後に作られたと考えられるからである。ちなみにこのとき僕は、小学校4年生~5年生であった。

1979~80年版の「判決」は、インターネットで調べてみたが、どんなエピソードが放送されたとか、出演者が誰だったか、などのデータがまったくといっていいほど残っていない。

一方で、泉谷しげるがピアノ殺人事件の犯人役を演じたことは、インターネット上のいくつかのサイトで書いている人がいるのだが、それが「判決」というドラマの中のエピソードであることを明確に書いているものは存在しない。

なので、「泉谷しげるが犯人役を演じたピアノ殺人事件のドラマ」が、「判決」という連続ドラマの中の1つのエピソードとして放送されたというのは、僕自身の記憶の中にしか存在しないのである。

これだけインターネットで情報があふれていても、まったく忘れ去られてしまうものや埋もれてしまうものがあるというのは驚きである。

果たして、ここまで書いてきた僕の記憶というのは、本当に正しいのだろうか。

当時このドラマを見ていた、という人はいないだろうか。

もう一度このドラマを見て、僕の記憶を確かめてみたい。

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