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簡易ベッドの闇

8月30日(金)

娘の入院2日目。

昨晩は、実家の母に病室に泊まってもらい、僕は夜10時頃に家に戻り、今日は朝7時から午後9時過ぎまで、途中2時間ほど中抜けしたが、病室で付き添っていた。で、申し訳ないことに今日も、実家の母に病室に泊まってもらうことにした。

「昨日はよく眠れた?」

と母に聞くと、

「眠れるわけないでしょう」

と、笑いながら答えた。

「この簡易ベッド、見てみなさいよ」

病室に置かれた簡易ベッドは、「簡易というにもほどがあるだろ!」というくらい、貧相なベッドである。いや、これを見た人は、これがベッドであるとは気づかないのではないか、というくらい、鉄パイプと布を簡単に組み合わせただけの粗雑な作りである。

どう考えても、一般的な大人の身長よりも長さが短くて、膝を曲げて眠らなければ、足が簡易ベッドからはみ出てしまう。

「寝ているとハンモックみたいにからだが沈むのよ。だから容易に起き上がれない」

「たしかにそんな感じだね」

「ほら、むかしうちのおばあちゃんが入院したときに、私が病院に何日も寝泊まりして付き添ったことがあったでしょう」

「おばあちゃん」というのは、僕の父の母、つまり母にとっては義理の母にあたる。当時、僕は20歳くらいだったから、もう30年も前の話である。

「あのときの簡易ベッドとさほど変わらないのよ。当時はまだ若かったから起き上がることができたけど、いまじゃあ、起き上がるのも一苦労だわよ」

なんと!いまこの病院で使っている簡易ベッドは、30年前に母が別の病院で使ったことのある簡易ベッドから、まったく進化していないというのである!どうりでボロボロの簡易ベッドだと思った。

30年もたてば、少しは寝心地のよい簡易ベッドが開発されてもよさそうなのだが、この病院では、まるで十年一日、いや、三十年一日のごとく、むかしのままの簡易ベッドを使っているのである。

実際、先日僕が入院した都内の病院の簡易ベッドは、ソファーとして使っているものがベッドになり、ベッドの下に収納スペースもあるという優れものだった。

「あの簡易ベッドは寝やすかったね。さすが、都内の病院ね」そのとき付き添いで泊まったのも、実家の母だった。さながら母は、簡易ベッド評論家である。

つまり、このご時世、快適に寝ることのできる簡易ベッドはいくらでもあるはずなのである。にもかかわらず、なぜこの病院は、地元でも有名な大きな総合病院であるにもかかわらず、何十年も前からの粗雑な簡易ベッドを使い続けているのだろうか?

ここで注意しておきたいことは、簡易ベッドは、病院から支給されるものではなく、病院に出入りしている業者から、1日いくらかで借りる、というシステムになっていることである。ちなみに、簡易ベッドを1日借りるときの代金は、520円である。

支払いは、病院に対してではなく、病院に出入りしている業者に対しておこなうのである。

ここからは僕のまったくの想像なのだが、病院に出入りしている業者は、もうずっとむかしから、簡易ベッドの貸し出しの利権を独占しているのではないだろうか。つまりほかに競争相手がいないのだ。

だから、簡易ベッドは更新されることもなく、何十年も前のものをいまも使い回しているのである。

考えてみれば、ボロい商売ではないだろうか?それを貸し出すだけで、1日あたり520円が手に入るのである。

なんか、こんな話、落語にありそうだな。「猫の皿」?ちょっと違うか?

簡易ベッド利権の闇は意外と深いのではないか、と、つい、深読みしてしまう。

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