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中島敦の絵はがき

自分の仕事に関係する展覧会を見に行くべきなのかも知れないけれど、へそ曲がりというか、現実逃避というか、全然関係のない中島敦展を見に行くことにした。

周知のように、中島敦は33歳の若さでこの世を去るのだが、彼の短い人生に比して、生前の彼に関する資料が、実に数多く残されていることに驚いた。

とくに驚いたのは、南洋庁に赴任した彼が、自分の息子に向けてひっきりなしに南洋の絵はがきを送っていることである。

絵はがきに書くので、1回あたりのメッセージの量は少ない。

「けふ、とてもおいしいミカンとバナナをうんとたべたよ。大きくてあをいんだよ。それであまいんだ」

「ヤップ島でたべたバナナはとてもおいしかったぜ。さたうバナナって名前だってさ。あまいからだね」

「今やっとパラオに着きました。これからおりるところ。空はくもってゐます。とうとうふりだしました」

そのほとんどは、たわいもない報告である。やってることは、LINEと変わりない。もちろん、LINEのように素早く相手の元には届かないのだが、頻繁にはがきを書くということは、いまのSNSでやっていることと、基本的には同じなのではないだろうか。

なんてことはない。いまははがきを頻繁に書く習慣がなくなり、SNSに代わっただけなのだ。相手に伝わるスピードが速くなっただけで、むかしから、どんな遠い場所にいても、伝えたい人がいれば、なんとかして伝えようと手段を講じていたのである。しかもそれが苦ではなかったのだ。

SNSが発達した時代といわれるが、はがきを書かなくなった時代、ともいえる。

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