大林監督のこと
4月11日(土)
大林宣彦監督の訃報は、4月10日の深夜にネットニュースで知りました。
僕の家の玄関には、2年前のインタビューのときに大林監督が僕の娘へ宛てて書いてくれたサインが、額に入れて飾ってあります。その娘も、先日2歳になり、だいぶ言葉を覚えるようになりました。いまは「アナと雪の女王」に夢中で、繰り返し見ています。
そういえば2年前のインタビューで大林監督の事務所にうかがったときに、事務所の壁に新作映画のタイトルを書いた原稿用紙が貼ってありました。たしかそこに書かれていたタイトルは「春爛漫!キネマの玉手箱(仮)」。僕はそのとき、それを写真に収めたいという衝動に駆られたのですが、できませんでした。その時点ではまだ撮影に入る前だったんですよね。
その映画が「海辺の映画館 -キネマの玉手箱-」として完成して、今年の4月10日(金)に公開されるはずでした。しかし新型コロナウィルスの影響で、公開は延期となり、その公開予定日だった4月10日に、監督は世を去ったのです。
10代の終わりから20代前半にかけて、大林監督の映画はもちろん、監督の出演する番組もチェックして録画したり著作を全部集めたりするほどのファンでした。これが自分の中の第一次ブーム。1980年代の終わりから90年代前半頃のことです。
その後しばらく離れてしまいますが、2002年の秋、大分の臼杵を訪れたときに、大林監督が「なごり雪」を撮影した際によく通っていたという料亭に偶然行ったことがきっかけで、監督の映画と再会したのが第二次ブーム。
第三次ブームは、それから15年後の2017年です。2017年の夏に僕は大病を患い、絶望的になっていたときに、2017年6月11日に東京で開催された「SHORTS SHORTS FILM FESTIVAL& ASIA 2017アワードセレモニー」という、映像コンペ作品の受賞作発表と表彰式がおこなわれた場で、審査員の一人である大林監督が、30分にわたるスピーチをしている動画を見つけました。僕はそこで初めて知ったのですが、齢80になろうとする大林監督は、前年の8月、末期がんであることがわかり、余命3か月の宣告を受け、その翌日に「花筺」をクランクインしたというのです。そのお話を聞いて、たいへん驚きました。
僕はいまも病気とつきあっていますが、病気を抱えながらどのように仕事を続けていけばよいのか、ということを、その30分のスピーチで学び、僕は絶望から解放され、前向きに人生をとらえることができるようになったのでした。それを、若い頃からのファンだった大林監督に教えてもらった、ということに、不思議な縁を感じたのです。
その後、2018年の5月に、ある本の仕事でまさか大林監督にインタビューできる機会が訪れるとは!そこに至るまでにはさまざまな縁が絡んでいたのですが、それについては省略します。
僕の中では、2018年5月に監督にインタビューできただけで、十分に満足だったのですが、その1年後、2019年4月末に、僕の古巣の土地で、大林監督の講演会があり、しかもその土地で過ごしていたときの僕の友人がその企画に関わっていることを知り、日帰りで講演を聴きに行き、懇親会までご一緒するという幸福な時間を過ごしました。そこではパートナーの恭子さんともお会いすることができ、僕が新幹線の時間の関係で懇親会を早めに失礼することになったとき、大林夫妻が別れ際に手を振ってくれたのが、いまでもはっきりと目に焼き付いています。
でも、ファンというのはそういうものなのかもしれませんが、お目にかかってもこちらが緊張してしまい、ほとんど会話を交わすことができません。
2018年5月のインタビューの録音を聞き返すと、監督と会話をしたのは、
監督:百恵ちゃんの自伝を書いた女の人、誰だっけな。
私:残間さん。
というやりとりと、
監督:この間、昼ドラで何とかの郷ってやってましたね。
私:『やすらぎの郷』ですか。
監督:あれに出ていた女優さん、千葉真一の奥さん。
私:野際陽子さん。
たぶんこれだけです。もちろんこのくだりは本ではカットされています。
2019年4月末に古巣の地でお目にかかったとき、懇親会で幸運にも隣に座らせていただく時間が少しあったのですが、そのときも、
監督:パキさん(藤田敏八)がテニスの審判役で僕の映画に出てくれたことがあったね。何だったっけな。
私:『瞳の中の訪問者』ですね。
というやりとりと、
監督:いま(このお店で)流れているBGM、僕の映画で使った曲だよね。何だったっけ。
私:『あした』のサントラです。
と、これだけでした。
些細な出来事にすぎませんが、他の人にはない、自分だけの思い出なので、心覚えとして書いておきます。
新型コロナウィルスが収束して、また映画館で映画が見られる日が来ることを心待ちにしましょう。
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