在宅勤務ヲ命ズ
4月は人事異動の季節である。
うちのような職場では、この時期に、お役所を中心にいろいろなところから人事異動の挨拶にいらっしゃるのが慣例となっているようである。
先日の金曜日は会議がなかったので在宅勤務をしていると、職場から、
「4月6日(月)に得意先Aの部長さんと課長さんがうちの社長のところに挨拶にみえるので、同席してください」
「4月10日(金)に得意先Bの社長さんがうちの社長のところに挨拶にみえるので、同席してください」
という依頼のメールが、立て続けに来た。得意先というのは、ま、簡単に言えばお役所とか公的機関のことである。
いくら慣例とはいえ、新型コロナウィルスによる感染が広がっているこの時期に、何事もなかったかのように、本当に挨拶に来るつもりなのだろうか。
僕はこの些細な出来事のなかに、この国の社会の本質が潜んでいるとみている。
東日本大震災のあと、ある地域で活動していたボランティアの方が、こんなことを言っていた。
「役所というのは、非常時には平時の論理が優先する」
たしかそのような言葉だったと思う。いまの政権が、国民一人一人への一律の現金支給を拒み、「現金ではなく商品券を」とか、「現金を支給する場合は、所得に制限を設けて自己申告させる」などということを、この期に及んで真剣に考えているというのは、いまの政権が狂っているというだけではなく、もともとこの国の役所が、そういう考えしかできないところだからである。「コロナ禍」という状況で、まるで平時のように挨拶まわりというふるまいを見せようとするのも、そういうことなのだろう。
そしてこの土日、東京の感染者数が100人を超える、という事態になった。いよいよ危機的な状況である。というか、もうこれ、ダメだよね。
日曜日の夕方あたりから、
(ああ、明日の月曜日は、挨拶まわりで社長室にやってくる方々に対応するためだけに、2時間半の満員電車に揺られて職場に行かなければならないのかあ…)
と、すっかり憂鬱になってしまった。それでも、今年度からはそういう仕事もやらなければならないのだから、仕方がないだろうと、あきらめた。
そうしたところ、日曜の夜に社長から電話があり、
「君、東京やろ。明日から当面は、職場に来んでええで」
と言われた。もちろん、クビになったわけではなく、在宅勤務を命じられたのである。
ひとまず、満員電車に乗らなくてよくなったと、安堵した。
とはいえ、在宅勤務に切り替えることで、自分の主宰する会議をどうするかなど、いろいろなことに対応をしなければならず、その対応も悩ましいところである。
それよりも僕が気になるのは、ここ数日の急激な感染拡大の状況にあって、得意先の方々は、本当に予定通り、うちの職場に挨拶まわりに来るのだろうか、ということである。
もし本当に、挨拶まわりに来るのだとしたら、「非常時には平時の論理が優先する」という仮説が、ますますもって証明されることになるだろう。
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