作風・その2
相変わらず、何も書くことがない。
ずっと以前に録画しておいた、野村芳太郎監督の映画「続・拝啓天皇陛下様」〈1964年)を観た。
「続」というからには、当然第1作がある。野村芳太郎監督による映画「拝啓天皇陛下様」は、1963年に公開され、それがあまりにヒットしたため、急遽続編を製作したといわれている。
しかし、1作目の「拝啓天皇陛下様」と、2作目の「続・拝啓天皇陛下様」は、実際にはまったくつながりのない、別の話である。手っ取り早くウィキペディアの説明を借りると、「『拝啓天皇陛下様』と同じく、棟田博の兵隊小説・拝啓天皇陛下様を原作としているが、前作にて主人公は死んでしまっており、「軍隊は天国だと思っている純朴な男」というコンセプト以外は、設定その他全て変わっている別物である」。 主演は両方とも渥美清だが、主人公の名前は、1作目は「山田正助」で、2作目は「山口善助」である。
1作目は、以前からよくみていたのだが、2作目を観たのは、今回が初めてである(このあと、「拝啓・総理大臣様」という「パート3」が作られるのだが、「パート3に当たりなし」というジンクスどおりの作品らしい。後日観る予定〉。
1作目も面白かったが、2作目も悪くない。脇を固める人たちの演技が、みんなすばらしい。とくに「続」の方は、華僑の王さんという役で小沢昭一が登場するが、これがまた絶品の演技である。
余談になるが、小沢昭一演じる華僑の王さんもまた、時代に翻弄される庶民として登場するが、彼のもともとの職業が理髪師という設定なのである。この設定もまた興味深いので、心覚えに書き留めておく。
話を戻すと。
2作を通したコンセプトとしては、「軍隊を天国だと思い、天皇陛下の赤子として天皇を純粋に思い続ける愚鈍な男」の戦中から戦後に駆けての悲哀を描いているのだが、両作品を見比べてみると、なんというか、読後感ならぬ「観後感」が、かなり異なる。
1作目は、「戦友であり良き理解者でもある棟本博との長年にわたる関係を軸に構成されている」(ウィキペディア)。棟本博を演ずるのは長門裕之であり、映画の視点も棟本博の視点を中心に語られる。物語の全体の印象は、「乾いた印象」というのか、カラッとしている感じである。
それに対して2作目は、前作よりも少し物語が重く、ちょっと切ない。前作の印象が、カラッとしているのに対して、2作目は「ウェットな感じ」がするのである。
それともう一つ、渥美清が演じる山口善助が、のちの寅さんを連想させるのである。これは、前作を観たときにはあまり感じなかったことである。実際、2作目の中では、山口善助は少年時代に勉強を教えてくれた先生(岩下志麻)に恋い焦がれてフラれ、戦後は戦争未亡人(久我美子)に恋い焦がれてフラれるのである。その展開は、まるで後の寅さんそのものである。
それもそのはずである。2作目の「続・拝啓天皇陛下様」の脚本には、野村芳太郎監督と並んで山田洋次監督も名を連ねているのである。
1作目と2作目のテイストが、なぜかくも違うのか?それは、脚本の山田洋次によるところが大きいのではないかと愚考する。2作目の、あの独特のウェット感(これは、後年の「砂の器」の脚本にも通ずる)は、山田洋次の作風そのものである。逆に言えば、1作目がわりとカラッとした展開になっていたのは、山田洋次が脚本に参加していなかったことが大きいのだろう。
作風ってのは、つきまとうんだねえ。
で、もう一つ気がついたのだが、若い頃の山口善助が、自分の唯一の理解者であった先生(岩下志麻)に憧れる場面。このときの岩下志麻が、まあ綺麗なんだ。
どこかで観た場面だなあと記憶をたどっていくと、山田洋次監督の映画「馬鹿が戦車でやって来る」にも、同じような場面があったことを思い出した。「続・拝啓天皇陛下様」と同じ1964年に公開された映画である。
ハナ肇演じる主人公サブは、少年兵上がりの無教養な乱暴者で、村中から嫌われている。唯一の理解者が、岩下志麻演じる村の長者の娘だった。このときの岩下志麻も、まあ本当に綺麗なんだ。当然、サブはその娘に憧れるわけだが、その恋が成就することはない。
考えてみれば、渥美清演じる「続・拝啓天皇陛下様」の主人公も、ハナ肇演じる「馬鹿が戦車でやって来る」の主人公も、その性格や境遇や世間からの目、といった点で共通していて、両者はかなり親和性が高いのである。これもやはり、山田洋次の作風のなせる業である。ただおそらく、山田洋次監督特有の「ウェットなストーリー展開」には、おそらく渥美清の演技の方が適合したのであろう。ハナ肇の演技は、どちらかといえばカラッとしているのである。そのあたりが、後年の「男はつらいよ」の流れにつながっていくのだと思うが、あくまでこれは僕の妄想仮説である。
妄想仮説ついでに書くと、世間的には「拝啓天皇陛下様」と「続・拝啓天皇陛下様」が一連のものとしてとらえられているが、僕からしたらむしろ、「続・拝啓天皇陛下様」と「馬鹿が戦車でやって来る」を一連のものとしてとらえたほうがいいのではないかとみている。
以前に書いたことがあるように、僕の中では「砂の器」→「八つ墓村」という系譜ではなく、「砂の器」→「八甲田山」という系譜なのだ、というのと、同じニュアンスで、「拝啓天皇陛下様」→「続・拝啓天皇陛下様」ではなく、「続・拝啓天皇陛下様」→「馬鹿が戦車でやって来る」という系譜なのである。
…相変わらずどうもわかりにくいね。
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